屋烏之愛

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屋烏之愛

 自身の顔を覆う志翠の震える手の上から、よく知る誰かの温かな手が触れて、志翠は肩をびくりと揺らし、それから恐る恐るゆっくりと顔を上げた。 「──清風……」 「……志翠?」  清風はいつのまにか目の前に現れた志翠に驚きながらも、これが現実なのかどうかを確かめるようにその温かな涙を指で拭った。 「きよかぜ……本物?」 「志翠、なのか……?」 「清風、清風……」  志翠は寂しさに耐え切れず、今度は清風に抱きついて泣き出した。一瞬狼狽ながらも温度のあるその体は本物の志翠なんだと改めて安堵し、その体を座ったままゆっくり支えてやる。 「良かった……はぐれたかと思った……」  清風は深いため息をつきながら、腕の中で震えるその小さな頭を何度も撫でた。 「清風、ごめん、ごめん……」 「なにが? どうした?」 「俺、清風にいっぱい嘘ついてた……清風に嫌われたくなくて、ごめん、ごめんなさい」 「──そんなの、俺だって同じだよ……俺、お前にずっと隠し事してた……本当の俺は狡くて、汚くて、お前の親友なんか失格なんだ……」 「そんなことない、清風は汚くないよ、狡いのも、汚いのも俺の方なんだ。俺、清風のこといつも連れ回して、清風のバイトも本を読む時間も奪って、最低なのは俺なんだ……」 「そんなこと言うな、天文部に入ったのは俺の意思だ。俺が……」 ──少しでもお前と一緒にいたくて……。 「俺が、なに?」 「──いや、なんでもない」 「言ってよ清風。もう、俺に遠慮しないで、ちゃんと嫌なら嫌って言ってよ。俺、清風の嫌なことはしたくないって言ったろ? ちゃんと俺を叱ってよ、俺、清風に甘えてばかりで……だから清風、俺にちゃんと全部言って?」  音楽室の中は完全なる暗闇の筈なのに、なぜだか志翠の大きな瞳だけはちゃんと見えていて、その濡れた瞳に真っ直ぐ見つめられると、清風の心臓は簡単に押し潰されそうだった。 「……みんなのところへ帰ろ、な?」  耐え切れず体を離そうとする清風を志翠は必死に引き止めた。 「だめ! 言ってよっ、清風、もう俺逃げるの嫌だ!」 「……無理だ、言えない。言ったら……全部……終わる……」 「終わるってなにが? 終わんないよ! 清風が言ったんだ、俺たちは絶対に仲直りできるって、だからちゃんと話そう?」 「志翠……ごめん、俺、無理だ……」 「無理って、なに? 無理なんて言うなよ!」  志翠は清風の肩に両腕を掛け、思い切り体重をかけて自分へと引き寄せた。バランスを崩しそうになった清風は両手を床についてどうにか志翠の上に倒れずに済んだが、出そうしたはずの声が志翠の唇によって塞がれ、音にならずに終わった。 「──し、すい……?」 「清風、好きだよ。ごめんね、好き。ごめんなさい……」  あまりのことに動けずにいる清風へ何度も志翠は口付けた。初めてのキスは志翠の涙でしょっぱくて、嘘みたいに温かくて、柔らかかった。  熱い頬をした志翠が、途切れ途切れの呼吸を繰り返しながら濡れた瞳でじっと清風を見つめる。  清風は悪夢からは抜け出せたはずなのに、また新たな幻想に惑わされているのかと、熱で膨張した脳味噌が冷静な処理をできずに思考回路が停止したアンドロイドみたいな顔をしていた。  初めて見る清風の無防備すぎる顔があまりにも衝撃的だったのか、突然志翠は吹き出した。  志翠から張り詰めた緊張が抜け落ち、頬を染めたままゆるりと笑うその表情がたまらなくて、考えるよりも先に動いた長い腕が、志翠の体を力一杯抱き締める。 「くる、し、清風……」  志翠が逃げようとすると、今度は清風がそれを追いかけ、そのまま二人は床へ倒れ込んだ。志翠の上に重なるようにして清風が倒れ込み、太ももに当たった清風の硬くなったものに志翠は頭の中が大パニックを起こす。 「き、清風……っ」 「ごめん……俺は、誰よりも黒くて狡くて汚いんだ……本当の俺は、お前が好きになるような綺麗な人間じゃないんだよ……」 「どうして? 清風は清風だろ? 綺麗とか汚いとか、関係ないよ。俺にとっての清風はずっと昔から一人なのに」 「お前が見てきたのは本当の俺じゃない、ただお前に嫌われるのが怖くて……俺はただの卑怯者なんだ、偽物なんだ」 「偽物なんか存在しないっ、俺にとっての清風はこの世で一人だけだよ! 汚いと思うならそれでも良いよ、でももう俺から逃げないでよ」 「良くない、本当の俺はお前なんかに触っちゃダメなんだ」 「いいよ、じゃあ! 俺が清風に触る! 俺が清風を汚せば良いんだろ?」 「何言って……」清風が慌てて体を引いたときにはもう手遅れだった。乱暴に下から志翠に口付けられ、慣れないそれは荒々しくて、時折二人の歯がぶつかり痛みが走る。 「ごめんな、清風……俺、汚くて、ごめん……」  そう告げると志翠は今まで以上に乱暴に清風の唇を塞いで、その中へ舌を這わせた。 「しすぃ……っんんっ」 「すき、清風……すき」  今まで知らなかった志翠の舌の感触に、熱に、清風の理性を抑える手綱は限界まできていた。鼻腔を充満する愛しいにおいにとうとう清風は抗えず、その舌を捕まえ、自らも奥を味わう。清風からようやく求められ、志翠は体を震わせ、幸せそうに吐息を漏らして微笑んだ。  唇を離れた清風の舌はそのまま志翠の首筋を這い、飢えた獣のように乱暴に痕を残した。そのたびに志翠の腰は敏感にビクビクと揺れ、小さな悲鳴を漏らした。  シャツを一気に捲りあげて、ずっと触れたかった尖りに直に触れると、志翠は大きく腰を反らせて、清風が一度も聞いたことのない甘い声を上げた。片方を赤くなるで何度も指で弄って、もう片方は舌で強く吸い上げながら唇とで挟むと、志翠は涙を滲ませながら熱く湿った声を何度も漏らした。    明らかに下腹部に膨らみを持たせた志翠が苦しそうに腰を揺らしていて、清風は躊躇なく下着ことズボンを剥ぎ取った。  少し触られただけで志翠の雄はすでに膨れ上がり反り上がっていた。 「いやだ……見んな……」今更恥ずかしそうに志翠は清風の視界の中で顔を俯かせて逃げる。 「暗くてなんも見えないよ……」そう言いながらも清風は何度も手で志翠の雄を扱いたり、先端の部分を手のひらと指とで強く弄り、溢れてくる先走りでわざと大きく音を立ててみせた。 「清風……やめ、それ、やだ……、音……恥ずかしい……」  清風の肩口へ顔を埋めながら羞恥に震える志翠の姿に清風は膨れ上がる自身の欲望を我慢できなくなり、手の中にあった志翠の雄を今度は口で咥え、躊躇なく何度も深く愛撫する。 「あっ、やぁっ! そんなのだめ離してっ、清風っ、ダメっ、汚い、汚いからぁっ」  羞恥心と恐怖心に苛まれながら志翠は泣いてかぶりを降り続けた。 「汚くてもなんでも良い……全部俺が好きな志翠のだ……」 「だめぇっ、やっ、清風……っ、そんな……っ、あっ、出ちゃうっ、あっ……ダメ……ダメェ……ッ」  震える指先で清風の肩を押すが、容赦のない清風の愛撫に勝つことができずに志翠の指は呆気なく落ちていき、それと同時に全てを清風の口の中へ吐き出した。 「──っ! あ……っ、ごめ……ごめんなさ……い」  力尽きた志翠はそのまま落ちるようにして床に背中をつき、赤く染まった胸を大きく上下させながら眉を下げて涙ぐむ。清風は何も言わずに震える志翠の手を絡め取り強く握りしめた。 「きよかぜ……?」  不安そうに名を呼ぶ志翠をよそに、清風は志翠が吐き出したものを手に取り、志翠から見えない場所を密かに濡らした。 「やっ、なに?」  くすぐったい感覚と共に、清風の指が何度も後ろの孔に触れているのがわかり、志翠は腰を揺らした。 「やだ、そんなとこ、だめ……触ったらだめ……」 「なんで?」 「なんでって、汚い……」 「でも、気持ち良いんだろ? 触ったら志翠の腰ビクビクしてる、ここも感じるんだな……」  今まで見たこともない、雄の顔と声をして笑う親友に志翠は全身が震えた。それは決して恐怖とかはでなくて、普段の清風からは想像もできないほど、あまりにも背徳的で魅惑的だったからだ。志翠は思わずゴクリと喉を鳴らす。  あの清風が、自分の体を見て喜んで、興奮してる──こんなの絶対あり得ないと思ってたのに……綺麗な清風にはそんな感情ないんだとずっと思ってたから……。 「清風は、いい……の?」 「なに?」 「俺が汚くても……清風は、いいの?」 「言ったろ、俺はどんなお前も嫌いになったりしないって……」 「清風の知らない……俺を見ても……?」 「見せてくれるの? 俺に……」 「見……たい、の?」自分から聞いておきながら志翠は今更恥ずかしさから肩をすくめた。  その仕草に思わず清風から笑みがこぼれ、たまらずに志翠へと口付ける。長い舌が志翠の熱を帯びた口の中を這い回るせいで息がうまくつけず、志翠は何度も苦しそうに声を漏らした。  口の中を這い回る舌と同じように、清風の長い指が志翠の尻と雄の間を何度を往復してゆく。ぐちゅぐちゅといやらしい音を立てて、再び起き上がりかけている志翠の雄を握りしめては先端まで刺激すると、ぬるぬると清風の手を濡らした。 「あっ、う……ん、んっ……」  されるがままに志翠は清風の刺激に酔いしれて、素直に声を漏らした。 「気持ちい?」 「……清風、言葉責め好きなの……? スケベ……」 「ただ確認しただけなんだけど……、まぁ、俺はスケベだよ。多分お前が思っている以上にいやらしいし、汚いし、最低だ……」 「いいよ……俺もおんなじ、やらしくて、汚くて、最低……って俺たちさっきから自虐が過ぎるよな。もうどうだっていい……清風がいなくならないでいてくれるなら、汚くても、なんでもいい……。キスして、清風……」  志翠は清風の体を引き寄せ、せがんだキスを何度も幸せそうに味わった。    清風の長い指が体の中へ少しずつ進んで、志翠は体をこわばらせながらも初めての熱と感覚に触れられてる場所が勝手に戦慄く。  少しずつ狭かった場所が熱と共に溶かされるみたいに広がってゆき、清風の指が中を出入りするたび志翠は腰を反らせて涙を滲ませながら甘く鳴いた。  限界に近い清風は自分の雄をズボンから出して、ひくつく志翠の後ろへ先端を擦り付けた。 「ひやっ……」 「……挿れない、から……少しだけ……」  苦しそうに清風は呻いて、先走りで濡れた自身の雄を志翠の持ち上げた尻臀に何度も擦り付けては白い肌をいやらしく濡らした。  何度もいじられた場所に清風の熱の先端があたるたび、志翠は無意識にそこをひくつかせる。 「清風……いいよ」 「なに……?」 「清風の……。中に挿れて……いいよ」 「……でも、俺、お前を傷付けたくない……」 「いい、清風になら何されてもいいんだ、俺……。それに俺がして欲しいんだ、清風……」 「志翠……」 「清風と繋がりたい……だめ?」 「なんだよ、それ……俺のこと殺す気か?」  志翠は清風の雄に手を伸ばし、わざと指先で先端をいじって煽ってみせた。 「志翠っ、コラ、馬鹿……っ」 「俺の体で清風のココ、こんなになるんだね……嘘みたい……ねぇ、コレ俺にちょうだい……?」  限界なのは志翠も同じらしく、早くそれが欲しくて、恥ずかしいのに自ら足を開いて清風を誘う。 「痛かったら、言えよ……絶対無理すんな」 「痛いに決まってるじゃん、清風のめちゃデカいもん……けどいいんだ、それでもして欲しいから……」  志翠は恥ずかしさで頬を染めながらも、愛しさが勝るその潤んだ瞳で清風へ微笑んでみせた。  ゆっくりと清風の熱が志翠の狭い場所をこじ開けるようにして中に入り、志翠はガクガクと膝を痙攣させた。 「志翠……大丈夫?」 「清風……手、繋いで……」 「うん……」  震える指先を温めるようにして繋ぎ合わせ、清風は何度も志翠へ優しく口付けた。  それが痛みのか、熱なのかわからず、志翠は自分の中へゆっくり入ってくる愛おしい相手を必死に受け止めた。少しだけ怖くて、その大きな背中にしがみつく。 「志翠……」 「だい、じょうぶ……清風、もっと中……へいき……」  清風が志翠の体を気遣いながらゆっくりと中へ進み、震える体を優しく撫でては抱き締めた。   「清風……の熱い……嘘みたい……」 「なに……?」 「俺たち……繋がってる……清風が俺の中いんの……嬉しい……」  志翠が腕の中で幸せそうに泣いていて、清風は自分自身もかつてない大きな幸福感に包まれた。思わず一緒に泣いてしまいそうになったが「わっ、清風のデカくなった」と誰かの色気のない発言で涙は呆気なく引っ込んだ。  改めて、目の前の志翠がいつも自分が見てきたあの志翠なんだと妙に安心してしまって、清風からは声と共に笑みが漏れた。 「なに笑ってんだ」 「ううん、俺の好きな志翠が目の前にいるんだなって改めて安心した」 「……じゃあ、ちゃんと……言ってよ」 「ん……?」 「さっきから俺ばっか好き好き言って……恥ずかしいんだからな」  いじけるようにして志翠が清風の胸に顔を押し付けた。 「うん……大好きだよ、志翠。ずっとずっと昔からお前だけが好きだった……。大好きだよ志翠……」 「やっぱダメ!」 「は?」 「……やっぱ、あんまり言うな……恥ずかしい……っ」  恥ずかしさのあまり小さく縮こまってしまった志翠を見て清風はさらに大きく笑った。 「馬鹿っ、中に挿れたまま笑うなよっ、振動がヤバいんだからっ!」  色んな感情に襲われた志翠が腕の中でパニックを起こしていて、清風はさらに笑いそうになるのをどうにか堪えぬく。 「もぉ……、なんなの、これ……。俺、初エッチってもっとドキドキするもんだと思ってたのに……」 「俺は十分ドキドキしてるよ。今日のこと、一生忘れない」 「……俺、も……忘れない」 「じゃあ一緒だな」 「うん……」  二人はどちらかともなく口付けて、額をつけたまま互いに微笑みあった。  清風は志翠の指を絡め取り、優しく握りしめると、さっきより強く腰を中へ進めた。  驚いたような声を志翠は上げたが、思ったよりもさきほどみたいな痛みはなくて、目を瞑りながら清風の緩やかな動きに体を預けた。 「清風……好き、好き……」 「うん……俺も、好きだよ、志翠……」  優しく包み込むような抽送と、時折深い乱暴な刺激の繰り返しに志翠の意識はすでに朦朧としていた。熱で頭の中が麻痺していて、思考は止まり、ただ清風にしがみつくことしか志翠には出来なかった。  何度も優しく熱い声が耳元でして、志翠はそれだけで幸せだった。  体の中にある溶けるような熱も、抱き締められるその体温も何もかもが嬉しくて、志翠は延々と幸福な涙を流した。
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