233人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
合縁奇縁
中学一年の春。
同い年の緊張した顔の新入生たちがブカブカの学生服に袖を通して、新しい門をくぐった。
俺が本の虫こと、清風に出会ったのはそんな始まりの春和景明。
たまたま同じクラスでたまたま席が前後。そんな些細な偶然の重なり。俺から声を掛けて友達になった。ごくごく普通で平凡なスタート。
清風はこの間まで小学生だったとは思えないくらい顔付きが大人びていて、とても物知りだった。
特に大袈裟なことは何一つしてなくて、単に13年間の中で知り得た情報をたまたま忘れずにいただけだと本人は言った。
清風はそんなとんでもないことをなんでもないことみたいにサラッと話し、特段鼻にかけるわけでもなく、気さくで、明るくて、さりげなく謙虚で。同じ男とは思えないほど気が利いて、俺を含め周りのガキとは明らかに違う生き物だった。
鼻の良い女子たちはそんな清風を放っておかなかった。整ったつくりの顔のせいもあったが、デカい声で笑う品のない猿みたいな俺たちとは扱いも全く違い、ちゃんとした人間として、男して、優しく扱われた。
それを妬む奴も中にはいたが、明らかに出来が違うのだから仕方ないと、俺のように諦める奴のが大半だった。それくらい清風は、嫌味のない、普通に良い奴だったのだ。
そして清風は、あっという間に成長して行った。脳味噌だけでなく、顔つきや、体つきも、他の男子より成長が早くて、俺の前にある後頭部が、いつの間にか黒板を隠すようになっていて、それに気付いた時、俺はなんだか清風に置いて行かれた気分になった。
清風が出会った頃と変わらず、俺たちと連んで騒いで遊んでも、なんとなく間にある小さな溝みたいなモノを勝手に感じて、俺はそれが何なのかをずっと考えていた。
思い違いなのかもしれないし、俺の単なる誇大妄想なのかもしれない。他の友達にコッソリ尋ねてみても考え過ぎたと笑われた。そんなことを単細胞の俺が考えてることのが気持ちが悪いと、負わなくてもいい傷まで無駄に負わされた。
清風が、俺よりもうんと背が伸びて、完全に変わってしまった低い声に慣れた頃、清風は昔のように俺たちと騒いだりはしゃいだりしなくなり、気が付くと一人で図書室に篭るようになっていた。
そのお陰で清風の博学ぶりはとどまることを知らなかった。図書室にある本の全てを読破しているんじゃないかと俺たちは本気で思ったほど清風は図書室の主みたいに住み着いていた。
俺だけが感じる小さな溝は、それからも消えることなく存在していたが、それ以上に腐れ縁のが威力は強かったらしく、卒業するまでの3年間、清風とはずっと同じクラスだった。
俺はそれを勝手に「お前だけが清風を理解できる友なのだ」と信仰したこともない神のお告げかなにかなんだと解釈して、勝手に奴の親友ヅラを貫いた。清風は特に嫌な顔をするわけでもなく、俺の親友ヅラをあっさり受け入れ、口数は少ないながらも当然のように俺を隣へ置いた。
あの口数の少ない謎多き知性溢れるイケメンが唯一選んだ親友こそ、猿から成長するのを忘れた俺なのである。
そのお陰で、ある種の優越感に俺がこっそり浸っていたのは確かだ。ぶっちゃけ周りからは、お前なんかは単なる引き立て役だとも言われたが、性格の良い清風が、俺をそんなことに利用しないことくらい俺の中では周知の事実だった。
最初のコメントを投稿しよう!