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金蘭之契
「俺アレならわかるよ、春の大三角形!」
志翠は金曜の夜、無理矢理押し掛けた清風の自室で、東北の夜空を指差しながら笑った。
「じゃあ星の名前も言える?」
「余裕。アークトゥース! スピカ、デネブラ!」
「アークトゥルス、スピカ、デネボラね。スピカしか合ってない。アークトゥースってわざとだろ、なんで言う時に力強く人差し指立てた?」
「いいじゃん名前なんて、俺が知らなくても清風が隣で教えてくれんじゃん」
「俺は志翠専用プラネタリウムのナレーション担当じゃないし、自分から天文部に入っておいて名前を覚えないってどんなヤル気のない部員なんだよ」
呆れた顔をする清風に反して、志翠は「ぐふふ」と気持ちの悪い声を漏らして夜空をにやにやと見上げた。
「聞いてんの? 志翠」
「聞いてる聞いてる。星の話させたら清風ってホントよく喋るよなー、めっちゃ楽しい」
無邪気に本心を語る親友に複雑な表情を一瞬浮かべた清風だったが、志翠はこちらへ背中を向けたまま熱心に夜空を見上げていたため、それに気付くことはなかった。
「なあ清風、星座の話してよ。俺清風の話なら胸焼けせずに聞いてられんの。声が良いのかな? やっぱお前ナレーターとかも向いてるかも」
「……志翠ってホント、発想が小学生みたいだよな」
「小学生とはなんだこのヤロー! 明嵜クンはいつまでも子供の心を忘れない純粋な人だよねって女子には評判なんだからな」
「それ多分褒め言葉じゃないよ」
「ウソッ! マジッ!」
目を閉じながらハァーと長い溜め息をついた清風は、ショックな顔をしながら振り返った志翠の頭を鷲掴みにして再び顔を夜空へ向けさせ、何事もなかったように星座の話を始めた。
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