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散々人に専用プラネタリウムのナレーションをさせておいて、いつの間にかそれを子守唄がわりにしていた志翠は、清風のベッドの上ですっかり眠りについていた。
「志翠。コラ、起きろよ。ここお前ン家じゃないぞ」
一度深い眠りについてしまうとそのへんの小学生よりも寝付きの良い志翠は早々目覚めない。下手に長く付き合ってきたせいで清風は起こすことを諦めざる得なかった。
仕方なく志翠の母親へ電話を入れると、心から申し訳なさそうに深々と謝られた後、息子については邪魔だろうから床にでも蹴飛ばしてくれておいて構わない。風邪が向こうから逃げるほどのバカだから一切心配しないでと扱い方を指南された。
清風が風呂から上がると、志翠はきっちりと首まで布団をかぶって綺麗に眠り直していた。ここまでされて床に蹴飛ばせるほど清風は鬼の心を持ち合わせていなかったし、そもそも大切な親友を無碍に出来る性格であればバイトの時間を奪われるような活動の天文部になんて入っていなかっただろう。
仕方なくベッドの隅へ腰掛け、清風は幸せそうに眠る親友の寝顔を眺め、深い溜め息をつく。
「お前は本当に、いつまで経っても俺への距離が変わらないよな」
昔から自分のそばでリラックスして、無邪気に笑う親友。楽しいことも悲しいこともいつも報告して来た。
身長が1センチ伸びた、昨日階段から落ちて尻を打った、国語で赤点を取って母親に殴られた、今年のバレンタインも収穫ゼロだった──
そんな中、中2のとある昼休み、図書室で真っ赤な顔をした志翠が、珍しく俯きながら蚊の鳴くような声で突然告げて来た。
「……清風って夢精したことある?」
それは質問というより、つまり、志翠が昨夜初めて経験したという報告だ。
「うん、あるよ……」
「マジで? 俺びっくりして、別に変な夢見たわけでもないのにさ、朝起きたらパンツ汚れてて、すげぇ焦ってさ」
結局清風の想像通り。志翠は単に自分の報告がしたかっただけなのだ。
どことなく恥ずかしそうにしながらも清風に不安で仕方ない胸の内を聞いてほしくて志翠は必死で話し続け、最後に
「これってフツーのことだよな? 俺変じゃないよな? 正常? 俺だけじゃないよな?」と、眉を下げながら清風に縋った。
「うん。男なら皆あるよ、心配しなくていいよ」
優しく微笑む清風にすっかり安心したのか、志翠はいつもの能天気な親友へと一瞬で逆戻りした。
──フツー、
正常、
変じゃない。
その言葉の羅列が清風の心を無駄に傷付けたことを能天気な親友が知るはずもなかった。
そのせいで、清風はその夜から眠りについて朝を迎えることを恐れ、ひたすら本を読むことに明け暮れ、とうとう体育の長距離走中に睡眠不足と貧血で倒れてしまったのだ。
その頃のことを今でも清風は鮮明に覚えていて、拗らせた思春期真っ盛りな自分があまりにも滑稽で愚劣で……未だに嘲笑いが止まらない。
清風は親友に寝床のど真ん中を奪われた為、客用の布団を持ち込んで眠ることにした。
部屋の明かりを消し布団に潜ると、静かになった部屋の中を親友の規則正しい寝息だけがやけに響いた。
それが清風の鼓膜へずっと響いては残り、どうやっても眠ることが出来ず、カーテンの隙間から薄らと太陽の光が差し込み出した頃、ようやく瞼が疲れて閉じた。
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