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もしもし、こちらテレフォン幽霊相談室、担当の天童新子です。
「あ、もしもし。すいません、ここであってますよね? 初めてなもので、ちょっと困惑しているんですが」
大丈夫よ。あなた幽霊よね? 困ってることがあればなんでもお答えするわ。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
では、まず初めにあなたのお名前、聞かせてもらえるかしら?
「はい、えっと、生前のですよね? 橋爪学と申します」
橋爪さんね。おいくつ?
「生前のですよね? 53歳です」
53歳の男性ね。あと、生前のですよね? って毎回聞いてくるけど、それは当たり前だからもういらないわ。じゃあ、職業は?
「せ……あ、すいません。普通のサラリーマンでした」
わかりました。あなた、ご結婚は。
「しています。妻と子どもが一人」
奥様と子どもさん、何歳?
「妻が49歳で娘が23歳で、会社員をしています」
じゃあ、もう成人してるわけね。家族三人で暮らしていたの?
「はい。一戸建ての自宅でずっと生活していました」
そう、わかりました。それで今日のご相談内容は?
「はい、あの、僕、幽霊になったのって初めてで、まあそんなの当たり前なのかもしれないんですけど。で、その、何をすればいいのかがわからなくて。この先、僕はどう過ごしていけばいいのか、ということで今日ご相談させていただいたんですが」
はい。そうね、わかるわ。あなた、幽体となってどのくらいなの?
「そうですね、三日とか四日なのかな。時間の感覚がわからなくて」
なるほど。人はね、亡くなったあと供養されて成仏するのよ普通は。そして魂はあの世へと行くの。
水先案内人と呼ばれる女性に声を掛けられなかった?
「掛けられました! でも、断ったんです」
未練があったのね、現世に。それで幽霊になったと。
「そういうことになるのかな。実は、どういう未練が自分の中にあるのか、わかっていないんです。変な話なんですが、なんかまだあの世へは行きたくないというか、でもその理由が自分でもわからなくて」
よくある話よね。
まだ現世にいたいって言ってね。そりゃそうよね、家族や友人と離れ離れになるのは誰だって嫌だから。
だけど、ほとんどの人が日が進むにつれて記憶を失っていくの。家族のことも友だちのこともすべて。最後には全てを忘れて、あの世へと導かれる。あなたはまだ記憶が多少なりとも残っているんじゃない?
「そうなんですかね。記憶が曖昧なんですが、まだ思い出せることもあるような気がして」
そうなのね。ここへは水先案内人の方に教えてもらって電話を掛けてきたのね。
「はい、そうです。ここへ聞けばわからないことは教えてくれるって言われて。人が使わない公衆電話を使って今掛けてます。でも、結構無責任なんですねあの人たちって」
そうね。彼女たちも忙しいのよきっと。
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