9人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
それじゃあ、早速色々と聞いていきたいと思うんだけど、何かぱっと思い出せることはあるかしら? どんなことでもいいから。
「そうですね、はっきりと思い出せるのは娘のことですかね。高校生の頃から娘の舞香からは嫌われていて、よく『キモ』とか『うざっ』とか言われていた記憶があります。情けない話ですが」
反抗期の娘さんならある程度は仕方ないんじゃないかしら。どこの家庭でもありうる話だと思うわよ。でも、そんなことを覚えているのね。
「なぜなんですかね。楽しかった思い出などはもうほとんど思い出せないのに、娘から嫌われていたことはどんどん出てくるんです。洗濯物は分けて洗って欲しいと妻に言っていたこととか、僕が仕事から帰ってくると急にリビングから出て行って自室へと向かうこととか」
あなたはそういう娘さんの行動に対して、率直にどう感じていたの?
「いや、そりゃあ嫌ですよ。小さい頃からずっと見続けてきた子どもがある時期から口もきいてくれなくなって、ケダモノでも見るような目をしてくるんですから」
それは辛かったわね。
「確か、初めのうちは強い口調で怒ったりもしたんです。でもそれをすることで、余計に嫌われてしまってからは何も言えないようになりました」
そうなのね。娘さん今はもう大人の女性でしょ? 最近までずっと嫌われていたの?
「少しはマシになっていたとは思いますが、思春期以前の昔みたいな関係性には戻ってなかったと思います。大学生になってからは多少会話もできるようになったんですが、どこかよそよそしくされていて」
娘さんのことになるとどんどん出てくるわね、あなた。
「そうですね。不思議と」
わかったわ。あなたの未練、それは確実に娘さんに対するものだわ。だからそんなにも思い出せるのよ。
「娘、舞香に対することが未練……。何があったのか、まだ思い出せないですね」
少しずつ紐解いていきましょう。必ず何かあるはずだから。
「わかりました。お願いします」
最初のコメントを投稿しよう!