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【天】「……あ。戻ってきた2人共。どうだった――」 【夏鳴】「……………………」 【金嶺】「……………………」 【天】「――え、どしたの? 2人とも結構なローテンションだけど……?」 【夏鳴】「違うんです……本当に違うんですよ金嶺ちゃん、私はちゃんと朝にはですね――」 【金嶺】「もういい喋るな……アンタのケツが何であろうが元々どうでもいいんだ私ぁ……」 【天】「……???」 【夏鳴】「……血が、出なかったんです」  私は、レッドスプラッシュを想定していた。  だけど実際には、単なる汚物の時雨でしかなかった。  拭いてみても、目を凝らして観察しても、金嶺ちゃんに全力で確認させてみても、やはり紙にすら証拠は確認できなかった。  ……つまり。 【夏鳴】「私は……痔じゃ、なかったの――?」  殆ど全く考えていなかった1つの可能性を口にした瞬間。  崩れるように私は、教室の床にへたり込んでしまった。 【天】「世橋さん!」 【夏鳴】「あは、あはは……す、すみません天くん。大変お騒がせしてしまいました……」 【天】「ほら、手」  天くんが手を差し伸べてくれた。  その手を取って、ゆっくりと立ち直す。 【天】「……いや、朝の世橋さんの体験も踏まえたら、痔の可能性は全然あると思うんだ」 【夏鳴】「え?」 【天】「でも病気には何でも程度っていうのがあるでしょ。2人が花摘みに行ってる間に僕も調べてみたんだけど、現状確認できる情報だと世橋さんは切れ痔の初期症状かもしれない」 【夏鳴】「切れ痔の、初期症状?」 【天】「その場合、出血量はいぼ痔なんかと比べてかなり少ないことが多くて、トイレットペーパーに付く程度だったりするんだ。そして初期症状という表現からしても、今なら治療がしやすい筈だ」  治療がしやすい。  その言葉を聞いた瞬間。  胸に溜まっていた何かが、ストンと、どこかへ落ちていった感じがした。 7d8e176c-b8d4-468e-a0e0-7bf2424bcfdd 【天】「痔の原因を多く占めるのは、大腸の調子、そこからの便の状態だ。硬すぎる、或いは軟らかすぎる便は多感な肛門に相応のダメージを与えてしまう。だから、食物繊維を筆頭にしっかり栄養をバランス良く摂取して、生活習慣を整えて、長時間同じ姿勢で座り過ぎないようにする、こういった工夫でお腹とお尻を労ってあげよう?」 【夏鳴】「な……なるほど」 【天】「僕の知る限り、世橋さんは生活リズムは良好だと思う。でも世橋さんの手作りお弁当はちょっと見るからに腸どころか五臓六腑全体に悪そうだから、購買のご飯を頼ってみたらどうかな。それと椅子や自転車のサドルにはクッションを検討しよう!」 【夏鳴】「……天くん、そこまで調べて、考えてくれて……」 【天】「世橋さん、強がってはいたけど、実は内心怖かったんでしょ?」  ドキッ。  空いた胸が震えた感じ。 【天】「排便といったら世橋さんだから、盛り上がろうとするのは分からなくもないけどね。でも僕、迷惑系動画クリエイターやり始めた時に体感したからコレも分かるんだ。初めての領域は向上したい者達にとって興奮するべきことなのかもしれないけど、自分が求めている世界だとも限らない。それを、事前に判断することも……案外難しいんだ」 【夏鳴】「…………」 【天】「だからね、怖くなることを怖がる必要はないんだ。二の足を踏むことを全否定しなくていいんだ。後戻りするのだって一手だよ世橋さん、それを……今回みたいに、誰かに相談すればいいんだ。といっても今回のは、ちょっとデリケートが過ぎたけどね!」  ……天くんの言葉を、受け止めて。思った。  心の中で、形になる想い。  「動揺」の本質……。 【夏鳴】「……私、きっと何よりも、怖かったんですね……」 【天】「油断して腰が抜けちゃうくらいにはね」 【夏鳴】「ふふ……実は恥ずかしながら、糞遊び鎌倉幕府同好会名誉顧問の私もレッドスプラッシュな戯れには疎かったんです。だから、本当に初めてのことで……」 【天】「うんうん。そっかぁ」 【夏鳴】「しばらく、落ち着いておこうと思います。他人様のモノを嗜むくらいで、私の菊は休暇を入れようと思います……どうでしょう?」 【天】「その辺は完全に専門外だからコメント難しいけど、友達として君の身体を何より優先するよ。お大事にしてくれたら僕は嬉しい」 【夏鳴】「ふふっ、有難うございます天くん。あー、何か、スッキリしたなぁ……! 天くんに相談して、本当に良かったです……!!」 【天】「良かったねー世橋さん」  初めてって、本当に大変だ。  おっちょこちょいな私はとても慌てふためいてしまった。きっとこれからも、そういう事があるたびに心揺らされて、時に悩み苦しむこともあると思う。  ……それでも、友達と一緒に、進んで、時には止まって、時には引き返そう。それなら、私でもきっと大丈夫。  そうだよね、お母さん?  私は、独りじゃないのだから―― 【金嶺】「……………………え?」 a63be462-1a91-44ae-9936-253741b892a4 【金嶺】「私への仕打ち忘れて円満に終わろうとしてんのこの話??」 - HAPPY☆END -
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