恋バナでボコられる

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 殴り合いの喧嘩なんて初めてした。  ……嘘です。見栄を張りました。  あっという間に伸されました。現在、地面とお友達中。 「ふざけんな、マサ。立てよ」 「……やだ」 「やだじゃねえだろ、立て!」  烈火の如く怒っているのは俺の幼なじみ。小学校に入学した時からの連れだ。  昔からきれいな顔をしていたが、高校生になって大変にヤバくなった。他の学校の女の子が見に来るわ、町を歩けば芸能事務所の人に名刺を渡されるわ、もうとんでもない。  だけど、こいつはそんなの興味ないんだ。  子供の頃からずっと空手に夢中だし、……それに、男に恋をしているからだ。 「立ったらまた蹴りが飛んでくるんだろ」 「人聞きの悪いことを言うな! 格闘技を嗜む者は、一般人に手を出したりしない」 「今! 今!」 「回し蹴りが当たる前にお前が勝手に倒れたんだろうが」 「当たったら死ぬもん」 「死ぬわけないだろ」  そもそもなんでこんなに怒らせてしまったのかというと、修学旅行の班決めの時に、俺がこっそり森山くんと俺の班を変えたためだった。そうすれば、こいつ、玲は森山くんと同じ班行動ができるからさ。 「頼んでもいないのに、余計なことをするな」 「えー、いいじゃん。三泊四日だよ? 思い出は多い方が……」  俺の言葉は、体内に取り込まれていたはずの空気が二酸化炭素となり、「ぐええ」といううめき声とともに吐き出されて途切れた。  いつまでも寝そべる俺に焦れた玲が、悪鬼を踏みつける仏像みたいに俺の腰に脚を載せて体重をかけたのだ。 「ギブ、ギブ!」  手のひらで地面を数度叩くと脚がどけられる。  ほんと、怖えよ、なにこの野蛮人。 「デリカシーの無い奴が、人の恋路を土足で踏みにじるな」 「だから、別に告白しろなんて言ってないじゃん。思い出は多い方がいいでしょ、って話」  這いつくばって涙目で見上げると、世界が凍るような冷たい目で睨まれる。 「うるさい。お前なんか、人を好きになったことも無いくせに」  ……あ、今のちょっとカチンと来るね。 「俺にだって好きな奴くらい……」  つい、零してしまうと、「へええ」とものすごく興味深そうにこっちを見た。  なんていうの、弱み掴んだぜ、みたいな? 狼の舌なめずりみたいな? 「初耳だ。誰? 俺の知ってる奴?」 「……」  なんだよ、デリカシーの無いのはお前も一緒じゃないか。  口を尖らせると、形のいい薄い唇でにやりと笑われる。 「教えろよ、なあ」 「い、や、だ!」 「俺のは知ってるくせに、ずるいだろ?」 「気付かれたお前が悪い」  そう言うと、ぱっと顔を赤らめた。  なんだかんだですぐ顔に出る奴。だからお前の好きな相手も分かったのだ。 「修学旅行までに突き止めてやるからな」 「へいへい」  お前だよ、ばか。  ぜってえ言わないけどな。  
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