猫、九生

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やんちゃで愛くるしくて可愛い私の宝物、ミャーコ。 ミャーコと過ごす様になって数ヶ月経った頃、私は自転車で、近くのショッピングモールにミャーコの玩具を買いに出掛けた。 友人から、猫まっしぐらな素晴らしい玩具が入荷したと聞いたからだ。 (新しい玩具を見たら、ミャーコは喜ぶかなぁ!) ミャーコの弾けんばかりの笑顔を想像し、ペダルを漕ぐ足にも力が入る私。 と、順調に進んでいた筈の前輪に不意に激しい衝撃が襲う。 何かに乗り上げたのだ。 見てみると、それは歩道の脇に設置されている縁石だった。 (嘘?!何で?!) だって、さっきまで確かに歩道の自転車用レーンを走っていた筈なのに。 いつの間に、こんなに端に?! 余りの焦りにブレーキを握るのが遅れる。 大きく縁石に乗り上げる前輪。 私を乗せた自転車は、後輪ごと大きく宙に舞い上がった。 ……筈だった。 自転車が大きく一回転しそうになった瞬間、誰かが強い力で後輪を押したのだ。 ガシャンッという激しい音を立て、地面に着地する自転車の後輪。 何が起きたのか全く理解出来ないまま、私は暫くその場に立ち尽くしていた。 と、不意に軽く後頭部を小突かれる。 「今のは流石に危なかったぜ?ちゃんと前見て運転しなきゃ駄目だろ?」 (えっ、だ、誰?!) 私が慌てて振り返ると、そこには明るい茶髪の、快活に笑う青年がいた。 「取り敢えず、怪我はないか?」 少し心配そうに、そう尋ねてくる青年。 けれど、私は一切彼の顔に見覚えはなかった。 見知らぬ青年から話し掛けられ戸惑う私。 しかし、青年はそんな私の様子等気にする事はなく、つらつらと話し掛けてくる。 「本当に、間に合って良かったよ。今のはギリギリだったぜ?」 その口ぶりから察するに、先ほど後輪を押して助けてくれたのは、きっと彼なのだろう。 見ず知らずとは言え、命の恩人である事に代わりはない。 私は自転車から降りると頭を下げた。 「あなたが助けてくれたの?本当にありがとう」 頭を下げる私に、慌てた様に「いいっていいって!」と言いながら両手を振る青年。 その仕草が余りにも大袈裟で、私はつい小さく吹き出した。 すると、つられた様に青年も笑う。 暫く笑い合った後、彼と私は思い出した様に互いに自己紹介をした。 「私、真央。秋月真央。あなたは?」 「俺は、蓮。都城 蓮(みやこのじょう れん)って言うんだ」 「ふぅん、良い名前だね」 「真央こそ」 何故だか、出逢ったばかりなのにすっかり意気投合した私達。 聞けば、蓮もショッピングモールに行くところなのだという。 目的地が互いに同じだと知った私達は、一緒にショッピングモールに行くことにしたのだった。
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