猫、九生

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徒歩の蓮に合わせ、自転車を押して歩く私。 と、途中で蓮が代わってくれる。 見た目はやんちゃに見えるのに、蓮は気の利くーー男らしいタイプの様だ。 自転車を押して歩きながら、様々な話をする私達。 私は蓮の話も聞きながら、自分の昔の話も口に出していた。 中学生の頃、学校のイベントの一環でイギリスに交換留学に行ったこと。 そこでホームステイした家には可愛らしい黒い仔猫がいたこと。 その黒猫はとても懐いてくれて、本当に可愛かったのだけれどーー不慮の事故(私が目を離した隙に、庭の池に落ちてしまい)で死んでしまったこと、を、いつの間にか蓮に打ち明けていた私。 「もしかしたら、あの猫は私を恨んでるのかも。でも、私は、可愛がったつもりだったんだよ。恨まれてるなら哀しいな。ただ、時々思うの。私がもっと早くに気付いていればって。池から抱き上げた時のあの子の最期の眼差しが……悲しみと絶望に満ちた瞳が忘れられないの……!」 そう言えば、よく事故に遭う様になったのも、あの黒猫が死んでからな気がする。 「私、もしかして……あの黒猫に呪われてるのかも」 気付くと私は、今まで抑えていた苦しい胸の内を、全て蓮に吐き出していた。 けれど、私のそんなどろどろした気持ちさえ、蓮は穏やかな笑顔で受け止めてくれる。 そうして、ふと立ち止まり、私を真っ直ぐに見つめると、こう言った。 「もし、猫の呪いなんて物があるのなら……そんな物、俺が打ち破ってやるよ!」 とても頼もしい台詞に、自然と笑顔になる私。 蓮もまた、つられた様に微笑んだ。 (蓮って不思議だな。初めて逢ったばかりなのに、こんなに元気をくれるなんて) すると、蓮が笑顔のままふと口を開く。 「そう言えば知ってた?猫の呪いを解けるのは、同じ猫だけなんだぜ?」 おどけた様な調子の言葉に、つい吹き出す私。 「何言ってんの?蓮はどう見ても人間じゃない」 と、笑ったまま蓮が口にする。 「さぁ?それはどうかなぁ?って言うかさ?真央には心当たりない訳?真央のことを、心から愛してる……守りたいと思ってる猫のこと、さ」 蓮のその台詞に、思わずチー助とミャーコの顔を思い浮かべる私。 (……まさか、ね?) が、私は直ぐに頭を振ってその想像を追いやった。 しかし、陽に照らされた蓮の瞳を見た瞬間、心臓がドキリと跳ね上がる。 太陽の光を受けた蓮の瞳はーー在りし日のチー助と同じ、透き通る様な琥珀色をしていた。
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