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あれから、三年。僕は18歳になりました。まだまだ大人じゃありません。
けれど、向上心も闘争心もなかった僕が、今こうして元気にこの場に立てているは、ほんの少し成長したからです。
僕は、高校に入ってから少しだけど勉強を頑張りました。水泳も続けています。弁当は早起きして自分で作っていたし、部活の朝練も頑張りました。そんな僕に、お父さんはよく“健はすごいな”と言ってくれました。
僕はこれから警察学校に入ります。
ずっとお母さんに“すごいね、けんちゃん”と褒めそやされてきた僕が、厳しい警察学校で耐えられるのか不安でいっぱいです。最初なんて、きっと褒められることなんてなくて、失敗して怒られてばかりなんでしょうね。
それでも、僕は頑張ります。だって、誰でも最初は怖いし失敗するけど、生きているからこそ“初めて”があるのですから。“初めて”をたくさん積み重ねて経験して、いつか絶対、僕は困った人を助けられる人になる。
僕は震災を通して初めて、大切な人を失うやるせなさや深い悲しみを知りました。それと同時に、どうしたら人を救えるのかを考えるようになりました。そして、その答えが警察官になることでした。僕はお母さんの検視をしてくれた警察官の言葉でお母さんの死を受け止めることができ、救われたからです。
お母さん、僕は警察官としての一歩を踏み出します。これからも一生懸命勉強して、体も鍛えます。きっと続けてきた水泳が役立つような場面もあるかもしれません。
僕は強いだけじゃなく、お母さんみたいに優しい人になる。そして、いつか、一人でも多くの誰かの救いになりたいです。
それができたなら、僕は前みたいに「できたよ、お母さん」って言います。
そしたら「すごいね、けんちゃん」って言ってくれますか?
ねぇ、お母さん。信じられないでしょう?
あののんびり屋の僕が卒業生代表ですよ。こんなこと、初めてです。
きっとお母さんは“すごいね、けんちゃん”って泣くんだろうな。
僕のことばかり話してしまいました。
けれど、震災を経験した僕たちだからこそ、この話をしたかったのです。
命ある僕たちは、卒業してこれからまた一歩未来に進んでいきます。
これからも、僕たちはたくさんの“初めて”を重ねて、生きていきます。
綺麗事でも何でもなく、何より大切なものは、命です。
僕たちを育ててくれたお父さんお母さん、おじいちゃんおばあちゃん。見守ってくれ先生方、街の人たち、関わってくれた全ての皆さん。本当にありがとうございました。
僕たちのこれからの“初めて”は、未来です。
―――終わり―――
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