24.

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* * *  一孝と気持ちを確かめ合えたことで、沙也子は喜びに浮かれていた。  確かに興信所だの、こっそり見に来ていただの聞いた時は驚いたけれど、沙也子はかえって一孝の気持ちが本気なのだと信じることができた。  子供の頃から想ってくれていて、全てを知っても変わらず好きでいてくれたなんて。  奇跡みたいに嬉しかった。  だから、盗撮先輩のことなど、もうどうでもよかった。  そもそもあれで決着がついたと思っていたが、一孝のほうは違ったらしい。全てを公表すると言うので、沙也子は慌てた。  同情するわけではないけれど、母子家庭のしんどさは知っているし、心の糸が切れかかる気持ちも分かる。  だからといってもちろん許されることではないが、先輩の母の心情を思うと、できれば穏便に済ませたかった。  沙也子がそう訴えかけると、一孝はしぶしぶ了承した。  その代わり、今後二度と沙也子に関わらないことを約束させ、スーパーのバイトも辞めてもらう。  もし約束を破ったら、盗撮の証拠を先輩が関わる全ての人――家族や友人、進学先に公開するという。  あの騒動の翌朝、沙也子は大槻と黒川にお礼を言った。  特に大槻は、感涙にむせぶほどだった。  そこまで心配をかけてしまったことが本当に申し訳なく、精一杯謝ると、彼女は嬉しそうに笑った。 「今度からは、何かあったらすぐに相談してくださいね。絶対になんとかしますから……、涼元くんが」  それを聞いた黒川が、おかしそうに噴き出した。 「あれマジ半端なかったな。やよいちゃんが後輩たちと一週間頑張っても分からなかったのに、涼元に言った途端、翌日には犯人見つけんだもん。逆にこえーわ。愛を通り越して、ストーカー」 「うるせえな」  一孝が心底嫌そうに顔をしかめる。  沙也子は、ん?と固まった。 (やよいちゃん……?) 「もしかして、二人、付き合ってるの?」  思わず尋ねると、大槻は表情を消した。 「あり得ませんから。黒川くん、名前呼びやめてください」 「えー、いいじゃん。せっかく可愛い名前なんだから」 「ウザいんですけど」  大槻は相変わらずの塩対応だったが、沙也子には少し距離が近づいたように見える。  そのうち、黒川から話を聞いてみようと思った。  大槻は「それより」と沙也子を見て、にんまりした。 「そちらは、ようやく付き合い始めたんですよね。おめでとうございます」 「よ、ようやくって」  聞き返されることまで頭が回っていなくて、沙也子は真っ赤になった。 「わたし、そんなに分かりやすかった?」 「いえ、谷口さんの気持ちはまったく。涼元くんの超絶片思いだと思ってましたから」 「ええっ、大槻さんがどうして知ってたの? 涼元くんが相談したとか」 「するかよ、バカか」  憤った一孝に、黒川と大槻は笑った。 「涼元くんの恋愛相談。聞いてみたい気もしますが」 「つーか、谷口さんが特別だってことくらい、見てりゃ分かるよ。みんな知ってんじゃね?」 「うう……穴があったら入りたい」  絶対に沙也子は彼の恋愛対象ではないと思っていた。  恥ずかしいやら、申し訳ないやら。何も気づかず、のほほんとしていた自分にビンタしたい。  沙也子が両手で顔を隠していると、一孝はまるで頓着せず言った。 「別に俺は、お前にさえバレなければどうでもいいと思ってた」 「いやいや、あれでバレてなかったのが、逆に奇跡よ。谷口さんのスルースキルの成せる技」  黒川がからかい混じりにパチンとウィンクする。  そこで救いのチャイムが鳴った。  いたたまれなさが極限に達した沙也子は、これ幸いと逃げるように、自分のクラスへ戻ったのだった。
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