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「うぃ~っす」 「よう、淳人(あつと)。眠たそうだな?」 「おう、昨夜はゲームで徹夜してさ。学校の授業も眠くてさ~」 通い慣れた塾の教室。 来たくて通っている訳じゃない。 それでもこの顔を見れば心は躍るし、この顔を見たくて通っているのは事実だ。 「もう直ぐ模試だぞ。ちゃんと勉強してるか?」 「ぜ~んぜん!友希也(ゆきや)は余裕だろ?夏休みの全国一斉模試だってA判定だったし」 「淳人もやればできるんだから、ちゃんと本気出せよ」 「無理無理!俺なんか逆立ちしたって友希也と同じ大学なんて行ける訳ないじゃん」 「またそうやって…そうだ、勉強会する?」 「え…?」 返事を告げる前に教室の扉が開き、入って来た講師の顔に友希也の顔がパッと色づく。 学習表を確認しなくても、振り返って顔を見なくても、その講師が誰なのか判ってしまう自分が、ひどく惨めな気持ちになる。 「よぉ~し、皆席に着けよ。今日は先ず小テストからだ」 「え~!シロ先生またかよぉ!?」 「先週もやったじゃん!」 「当たり前だろ~、もう直ぐ模試なんだから。数学を制する者は世界を制する、だ!ほら、テキストはしまえ~」 人当たりが良く温厚でフレンドリーな、誰からも好かれる数学講師 友希也の想い人、俺の……ライバル
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