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第2章:卒業【おまけ】
~シロ先生と青柳先生~
「今日、塾に大沢君と桐島君が来てましたよ」
多くの受験生達が無事に受験と卒業式を終え、塾の講師や職員達で開催した細やかな宴会の席で青柳先生が教えてくれた。
「え!そうなのか?何だよ~、俺にも声を掛けてくれたら良いのに~」
「他人の恋路の邪魔をすると馬に蹴られますよ」
「俺はあの2人のキューピッドだぞ?」
「ご自分に対する評価は、得てして他人からのそれとは異なる物ですよ」
そう言って、流れる様な動きで青柳先生は離れて行った。
…ちぇっ!相変わらず言葉がキツイというか口が悪いというか
ビールの入ったグラスを呷りながら青柳先生が移動した方に視線を向けると、現国担当の広野先生が青柳先生にしな垂れかかる姿が目に入った。
思わず2人をガン見しながらグラスを握る手に力が入る。
ひ~ろ~の~せーんーせー!!
あの野郎っ!!
「何見てるんですか?」
「おわぁっ!!」
いきなり真横から声を掛けられて、心臓が止まるかと思った。
落としそうになったグラスをギリギリで持ち直して振り向くと、
「お、脅かさないでくださいよ~、日下先生!」
生物担当の日下先生の鋭い視線が俺を見ていた。
「誰を見ていたんですか?…まさか広野先生じゃないですよね?菅原先生はあ…」
「わっ!バカ野郎!!」
慌てて口を塞ぐ。
「誰かに聞こえたらどうするんだよ!?日下先生の大事な大事な広野先生を見てた訳じゃないから!」
後半は小さな声で言う。
「当たり前です。菅原先生はさっさと青柳先生をモノにしてください。広野先生てば青柳先生の信者で俺の言葉は全スルーなんですから」
「簡単に攻略できないから苦労してんの。そっちこそ本気出してないんじゃないのか?」
チラリと横目で見た日下先生が、顔をギリギリまで近づけて
「僕の本気を菅原先生にお見せしたいですけど、それじゃ青柳先生が可哀想ですから…」
耳に掛かる吐息にゾクリとした瞬間、視線を感じて振り返ると、もんのすごぉく険しい視線の青柳先生が俺を見ていた。
宴会を終えて各自が帰路へと向かう中、見つけた背中を急いで追いかける。
「あ…あのさ、青柳先生」
「日下先生なら広野先生を送って行きましたよ」
「他人の恋路の邪魔をすると馬に蹴られるんですよね?なら無粋な事はしませんよ」
「そうですか。なら僕はこれで。お休みなさい」
「あああのさっ!……送って行きますよ?」
「……僕の部屋へ上がる為の口実ですか?」
「そう…なったら……嬉しいかなぁ、なんて…」
青柳先生の口角が僅かに、でも確かに上がるのが分かったから
「俺の本気、青柳先生にお見せしますよ」
隣に並んでそっと肩に腕を回した。
短針の俺は、じっくりゆっくり前進あるのみだ…
- 終 -
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