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聖なる神子様
エルスは朝から泣いていた。
父へ送った手紙の返事が届いたのだ。
そこには一言、「魔術が使えるようになるまで帰ってくるな」とだけ書かれていた。
その日もエルスは洗濯をしていた。
噴水の前で山盛りの洗濯物を洗っていると、どこからともなくヤイルと彼の取り巻きの男二人がやってきた。
「お前さぁ、いつまで神殿に居座る気だよ。目障りだから早く消えてくれない?」
ニヤニヤと笑うヤイルを無視して洗濯を続ける。
「無視してんじゃねーぞ下っ端。……何だこれ?」
ヤイルはエルスの足元に置かれた洗剤の入った瓶に目をやった。
彼は瓶を持ち上げ中を確認する。
そこには灰色のどろどろとしたペーストが入っていた。
エルスは彼が洗剤を奪ったことに気付くと、洗濯物を放り投げて立ち上がった。
「それにさわるな!」
慌てるエルスに機嫌を良くしたヤイルは言った。
「お前たち、こいつを抑えとけ」
彼の取り巻きたちは、命令を受けて逃げようとするエルスを捕まえると両脇から拘束した。
「そんなにこいつが大切か? ただの泥みたいだが……ああ、もしかしてこうして使うのか」
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