聖なる神子様

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 エルスは一通り中身を読んで、舌打ちすると本を棚に戻した。 (なにが清い心だ。俺のどこが邪(よこしま)だというんだ、くそったれ女神!)  機嫌が悪くなったエルスが足音を立てながら他にいい本がないか探していると、背後から少年が話しかけてきた。 「ねえ君、なにか探しているの?」  少年は窓辺に腰掛けたまま、膝の上に絵本を置いてこちらを見ていた。 「どうやったら魔術が使えるようになるのか知りたい」 「君が魔術……? それならこれを読んでみて」  少年は先程まで読んでいた絵本をエルスに差し出した。  それを受け取って表紙を見ると、そこには『聖剣シルドヘッドの伝説』と書かれていた。  エルスは以前、似たような絵本を読んだことがあった。  この国では聖剣シルドヘッドはよく語られる昔話だった。  あるところに悪さをする邪竜・プラチナドラゴンが一匹いた。  その邪竜は金銀財宝が大好きで、いたるところで人々を襲っては山のように宝を集めていた。  邪竜の被害に頭を悩ませた当時の神官長は女神に祈った。  寝食を惜しんで一週間祈り続けた末、神殿に一人の神子が女神によって遣わされた。
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