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邪竜の血
神官たちが荒れ果てた図書室を前に呆然と立ち尽くしている中、一人の騎士がエルスの元へ走ってきた。
「怪我はないか!」
近衛隊の制服を着たセノだった。
「さっきまでここに人がいたんだ。爆発音が聞こえて、そしたら彼が消え去ってて……」
要領を得ない説明をするエルスの手が血に染まっていることに気付いて、セノは顔を青くした。
「説明はいい。事情はだいたい把握している。誰か治療魔術を扱えるものはいるか!」
セノは入り口でおろおろしている神官たちを振り返った。すると、一人の年老いた神官が手を挙げた。
「私が治療いたしましょう」
「彼のことは任せた」
そう言ってセノは神官にエルスを押し付けると、忙しなくまたどこかへ走っていった。
「待ってセノ! ……痛っ!」
エルスは彼を引き留めようとしたが、手のひらの傷が開いて慌てて抑え込んだ。
老いた神官はエルスの手を取って彼の手の上に魔術陣を描いた。
するとたちまち傷が閉じていき、痛みが引いていく。
「表面だけ傷を直しました。ですがまだ中は傷ついていますから、無理はなさらないように」
「ありがとう!」
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