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「実は今日からこの神殿で見習い神官として働くことになったんです。今日は新しく住む部屋の掃除をしようと思って水を汲みに来たのですが、王子はなぜ神殿に?」
「僕はこの神殿に住んでいる神子様の様子を見に来たんだ」
それを聞いて、エルスはたしかにそんな話を耳にしたような気がすると思い出した。
聖剣シルドヘッドの偉業を讃えて行う年に一度の祭りの日、神殿の祭壇に不思議な魔術陣が現れ、そこに神の御使いである神子様が現れたという。
エルスはそんな馬鹿な話があるかと言って、神子様の存在など信じていなかったが、どうやら王子の様子を見るに本当に実在するらしい。
「そうだセノ、この可愛いエルスにバケツなんて重いものが持てるはずがない。君が代わりに部屋まで運んで、ついでに掃除も手伝ってやると良い」
王子の指示を受けて、彼の脇に控えていた近衛隊員の一人が前に出てくるとバケツを受け取った。
その男はおそろしく地味な印象で、暗い茶髪に暗い茶色の瞳というありふれた容姿をしていた。
背はひょろりと高く、たくましいというよりは頼りないという言葉がぴったりだ。
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