すきすきからの卒業

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 遡ること約30年。私の初めての記憶はやたらと手触りの良いタオルケットを掴む感触から始まっていた。その当時の私に聞かなければ分からないが、もうきっとその時からタオルケットの虜だった。幼稚園のお泊まり会にも、小学校の林間学校にも、必ずタオルケットを持って参加した。この頃はまだ子供だったというのもあって母も笑ってそれを許してくれた。「ひなちゃんは甘えん坊さんね〜」だなんて言って、タオルケットが古くなれば新しいものを買い与えてくれた。私はそれに甘えて365日、毎日かかさずにタオルケットと共に眠りにつき、手が空いてる時にはその端っこを手で握るようにして感触を確かめては安心を求めた。  私はずっとずっとタオルケットが大好きだった。撫でた時の手触りも、逆立てた時のザラザラも。ヒンヤリと冷えたタオルケットを首に巻いた時の謎の安心感も、お風呂上がりに裸で包まるのも、何もかもが大好きだった。そして今も尚、大好きなのである。そう、これが問題。30歳を過ぎた頃に突然気がついた。「これってもしかしておかしいかも?」と。気づくのが遅いと言われてしまえばそれまでである。実際に、きっと、遅い。何度だって気づくタイミングはあったはずなのに私はなんとなくそれを回避してきた。母に「高校生なんだからもうそれ捨てちゃいなさいよね」と言われた時も、社会人になって当たり前のように新しいタオルケットを買っていた時も、いくらでも立ち止まれたはずなのに私はそれをしてこなかった。  出来上がるであろう野菜炒めの量のわりに重く腕に食い込むスーパーのビニール袋が私の腕をちぎりパンのようにキツく締め上げながら沈んでいく。
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