すきすきからの卒業

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 (きた)るべき家飲みの日。私はすきすきを持参せずに、高めのワインとおつまみ一式を持ってユキちゃんの家におじゃました。白で統一されたユキちゃんの部屋は、名前の響きのとおり「雪」のようで、けれど決して嫌味っぽくはなく雑多に置かれたぬいぐるみや、趣味だというパズルが飾られ程よい生活感があった。 「さー、パーッとやるよ〜!」 「いえ〜い!」  ユキちゃんのかけ声に合わせて私とミカ、タエが声を上げる。集まった4人は全員が同期入社で仲が良く、共に戦ってきた戦友でもある。上司の愚痴やそれぞれの話で盛り上がり、話題が尽きることは無かった。そんな中、笑って会話をしながらも、家のゴミ箱に置いてきたすきすきのことが波のように定期的に思い出されては、憂鬱としてテーブルに並ぶ。ユキちゃんの家の真っ白なテーブルに並ぶ真っ黒な憂鬱は、コントラストがはっきりとして分かりやすい。  そわつく気持ちと憂鬱を、お酒で無理やりに流し込む。大丈夫、まだギリギリ楽しめてる。みんなの話も楽しいし、大丈夫。  不安を飲み飲み、その後も楽しい飲みの場は続く。決して不安が消え去る訳ではなかったけれど、それでもなんだかんだで私も心から楽しむことができていた。周りから苦情が来ないか心配になるほどに私たちは盛り上がり、しまいにはそれぞれが床やソファで崩れるように寝転がった。ああ、楽しい。なんだ、大丈夫じゃん。ようやく不安から開放された私は酷く安堵した。長年連れ添ったすきすきが居なくても、私はやっていけるのだ。うん、捨ててよかった。私が自分で気づかなかっただけで、きっともう、とっくに必要なかった。捨てても大丈夫だったんだ。参加するか迷ったけれど参加して良かった。ユキちゃんの家に来て良かった。
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