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卒業
「おそいよ。」
ミニスカートに色付きのタイツを合わせた彼女は、マフラーを口元にまで巻いて正門に立っていた。制服姿ではないので、妙に違和感がある。
「相澤・・・なんでいるの・・・」
「だってお互いにもう卒業でしょ?これからどうなるか分かんないし、一度逢っておこうと思ってさ。」
彼女――― 相澤涼香は、寒さで赤くなった頬を強調させて笑った。
『卒業』
そんな言葉がでるのは、意外とあっという間だった。
「今日行くんだ。 東京。」
アスファルトを埋める桜を蹴飛ばしながら、相澤は言った。
「そうなんだ・・・1人で?」
「うん。荷物もほとんど送っちゃったし、ほぼ手ぶらwww・・・今度いつ戻ってくるか分かんないなぁ。」
「そっか・・・」
相澤と同じ方向を向いて歩いていく。人のいないバス停も、ムダに広い公園も、毎日見ていたはずなのに、今日ばかりは新鮮だ。
「私ね。瀬戸と一緒のクラスになれて良かったって思ってる。」
「・・・俺と?」
「うん。多分逢ってなかったら完全にグレてた。家にも学校にも居場所がなかったけど、瀬戸が初めてまともに相手してくれて、自分の足で立てたって感じ。」
「俺、なんかしたっけ?」
「したよぉ。私がダラダラ教室に残ってた時。着替えようとしてたらアンタが入ってきたじゃん。」
「あぁ・・・そうだっけ・・・」
俺と相澤の出会いは最悪と言っていいだろう。俺が忘れ物を取りに教室へ戻った時、太ももが顕になった相澤と鉢合わせをし、罵声を浴びせられた。
「・・・すまない」
「ううん。そのおかげで変な写真撮らなくて済んだんだから。」
相澤は、恥ずかしそうに俯く。
「知ってたでしょ?私がそういうことしてるって。」
「・・・いや・・・あまり・・・」
「ちょっと知ってたってことじゃんwww」
2学年の頃から怪しい商売をしている人間がいる・・・と、噂で聞いた程度だ。同じクラスにいたと知ったときは、少しショックだったが・・・。
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