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「ぼく、つよくて、かっこいいオトナになるよ」  溢れては止まらなくなる涙のせいで、視界が、滲んでいく。  お姉さんが差し出したそれに、小指を絡めると、  いつだって、胸の奥が、ドキドキってうるさくなるんだ。 「ゆびきり、げんまん」  きっと、お姉さんは忘れてしまうだろう。  だけど、その時、俺、思ったよ。  これがきっと、最初で最後の、恋になるって。     1 ◆ ◆ ◆ 「おねえさん、僕ね、」  小さな口が、何かを伝えようとモゴモゴと動く。  青みのかかった、まるでビー玉のような煌めきを放つ瞳には、薄く涙の膜が張っていた。  それが零れ落ちてしまわないようにと、柔らかい頬に両手を添える。 「なに?」  ゆっくりとそう問えば、彼は、頬に赤を染めて、下を向いた。ふわふわと揺れる、軽やかな金色の髪。 「おねえさん、のこと、だいすき」  リンっと、鈴の音が鳴るような声だ。薄く開いた唇がそう告げ、そっとその瞼を閉じる。  長い睫毛は、緊張からか震えていた。  だめだと、分かっているのに、私の口から零れ出てしまうのは、彼の名前だ。 「渉太(しょうた)くん、」  彼は呼ばれたそれに、まるで天使のように柔らかい笑みを向け、そして再び言葉を発する。 「おねえさん、だいすき」 ◆ ◆ ◆  ふと聞こえた声に、激しく首を振る。  そして、叫んだ。 「だめっ!」  脳内に響いた声を追い出すために、思わず口から発してしまった言葉。  あまりにも大きな独り言に、彼女を異常だと思った人々は、サァーっと辺りから離れていく。  女は、それに、「す、すみませんっ」と小さな声で謝罪し、慌てて、目の前の本棚から、興味もない本を一冊手に取って、読むふりをする。 「また、やっちゃった……」  女の名前は、理美。  自身の住む街の、とある路面店の本屋へと、彼女は訪れていた。  ここは、給料日あとに、かならず来る場所である。  本といえば、最近では、電子書籍の方が一般的であり、冊子を買いに来るというよりは、リラックス目的で、この場に訪れる者も多いようだ。  もちろん、その気持ちはよく分かるのであるが、彼女は、電子よりも、紙媒体主義。  そのため、一ヵ月に一度、仕事をがんばった自身へのご褒美として、こうして本屋に訪れ、好みの本を探しにやってくるのである。  お目当てのコーナーまでを、まるで自身を焦らすように、ゆっくりと遠回りに、歩いていた彼女。  棚に収められている本のタイトルを一つずつ、見上げながらする、非常に短時間の散歩だ。  そんな時に、過去のトラウマ的な出来事を思い出してしまう、フラッシュバック現象は起こってしまった。  二十代後半という年齢になってからというもの、だいぶ頻度は減ってきたが、それを脳内から追い出すため、彼女は、思わず声を発してしまう。  周りに変に思われたくないとは思いつつも、ふいに蘇るそれに、逆らうことは出来ない。  それは、自身の罪悪感か、それとも。  理美は、深呼吸を繰り返す。それだけで、気持ちは楽になった。  短時間の散歩を、数秒の道のりまでショートカットすることにして、彼女が向かったのは、漫画コーナーだ。  その中で、一冊の本を取り出す。  自身が社会人になってからというもの、気に入って購入しているその漫画だ。おそらく連載が始まったのは、学生の頃だったかと思うが、今更ながらに、ハマったそれを、理美は毎月一冊ずつ買うのが、今の楽しみになっている。  その漫画は、ストーリーが好き! というだけではなく、この漫画の主人公である少年が、目は大きく、体は華奢で、いつも、ふりふりのレースをあしらった、お人形のような服装に身を包んでおり、それが、余りにも愛らしいと感じているからだった。 「か、かわいい~……」  表紙の少年を見ては、思わず、漏れてしまう声。  彼女は、少年と呼べる年齢の、小さな男の子に、強い愛情を持っていた。  それはもちろん、この漫画のような、少女にも見間違えそうなほどの可憐な少年もいいし、ヤンチャ盛りもいいし、平凡そうでも、おしゃまな眼鏡でも、ちょっとぽっちゃりでも、獣耳が生えていたっていい。  ようするに、幼い子がストライクゾーンであるのだ。  自身が、なぜそのような性癖に目覚めたのか。  そんなことを考えなくても、彼女はよく分かっている。  今住んでいるマンションの隣。現在は空き家であるそこだが、十年ほど前は、とある家族が住んでいた。  自身の両親と仲の良かった、お隣家族とは、付き合いがあり、学生であった理美は、そこの、十歳年下の男の子の面倒をよく見ていた。  その少年と言えば、まさにフランス人形。細い手足に、まんまるの瞳、そして、綿菓子のように柔らかな金色の髪。足や腕は細く、今にも折れそうで、その肌の白さゆえか、頬にはいつも赤にがかかっていた。  その愛くるしさ故に、近所では、『美少年』と噂されているほどだ。  そんな少年から、理美は「お姉さん」と呼ばれ、かなり懐かれていたのだ。  それだけであれば、美しい思い出ですんだのだろう。  けれど、先ほど思い出してしまった記憶の通り、強請るように自身の熱を訴えてきた彼のそれに、理美は、答えてしまったのである。  そこから、しばらくして、少年は引っ越してしまった。  まだ、学生であった自分であるが、あの時にしてしまった行為の数々が、きっとダメなことなんだろう、ということは分かっていた。  この年齢になって過去を思い返せば、それは尚更。罪悪感と後悔から、トラウマと呼べるものになってしまうのも仕方ないと言えるだろう。  けれど、体と心は、別。いや、心と脳とでもいうのか。いくら自分のそれを否定したくても、どうにもならない。  そのおかげで、理美は、気付けば、重度のショタコンとなっていた。  といっても、今は、漫画やイラストなど、創作物の少年を見ることが趣味という程度で留めており、恋愛については、同い年か、それより上の、あくまで、一般男性と行ってきた。  ただ、ここ数年間、恋人はいない。  そのことは、きっと、自身の性癖とは関係ないのだ。たぶん。と、言い訳のように自身に言い聞かせていた。 「……帰ろう」  フラッシュバックを起こしてしまったせいなのか、妙に今日は、過去のことに思いを馳せてしまう。  このまま、この本を買って帰っても、きっといつものようには、楽しめないだろうと考えた。   理美はルーティンを諦め、手に取った本を、棚へと戻す。  そして、「また明日、迎えに来るから……ジュエルくん……」と、漫画の主人公のことを思う。  そんなことをしていたせいなのだろう。  前をロクに見ていなかった彼女は、ドシンっという音を立てて、何かにぶつかる。 「すみません!」  一瞬、自身は突然現れた壁に、激突してしまったのかと思った。しかしそうではない。その壁は確かに今、「すみません」としゃべったのだ。それならば、両手に感じるこれは、人間の肌である。びっくりするほど、分厚い胸板だ。  首と天井が平行になるほどに上を向けば、黒のマスクに、深く帽子をかぶった、タンクトップ姿の男が、自身を見下ろしていた。  いくら春先とはいえ、この時期に、タンクトップ!? その上、その袖から飛び出している腕は、まるで丸太のような太さだ。  あまりに体格の凄まじい彼の存在に、理美は、仰天してしまい、謝罪をするのが遅れてしまう。 「……あ、れ、理美おねえさん?」  そんな時、彼が再び口を開いた。呼ばれた名前は、聞き覚えがある。いやそれは、自分の名前だと気づく。  男は、まるで腹の底から聞こえてくるような、太く低い声で言葉を続けた。 「その、違ったらすみません。俺、小山内(おさない) 渉太(しょうた)って言うんですけど」 「え……え、しょ、渉太くん!?」  理美はそれに、思わず大声を上げてしまった。  さきほど離れていった客たちが、ますます自身を異常者扱いしているだろうということを感じる。  けれど、これが驚かずにいられるだろうか。 「も、もしかして、昔、私の部屋の隣に住んでた、あの?」  小山内 渉太。理美は、その名前を、そして存在を忘れたことはない。いや、忘れようとしても忘れることは出来なかった。  そして目の前の男は言ったのだ。自身がその、渉太であると。そんなの、きっと嘘である。けれど、彼にそんな嘘をつくメリットがあるとも思えないと、彼女は、心ではなく、脳の部分で冷静に思う。 「そう、そう! やっぱり、理美おね、ううん、理美さんだ! 全然変わってない! いや、でも、すごく綺麗……」  彼は、黒のマスクを外した。その下の輪郭はしっかりとしているものの、筋肉のわりにというのも変な話であるが、整った顔つきだ。青みのかかった瞳は、どこまでも澄んでいる。  そして、腰を屈めると、まるで、クリスマスイルミネーションを見た、女子のような表情で、彼女を見つめた。 「あ、ありがとう。渉太くんは、その、ず、随分と変わったね」  理美はようやく、その言葉を告げた。  彼といえば、まんまるの大きな瞳に、細い手足、どこからどうみても可憐という言葉が似合う、少年だったはず。  それが、今の彼は、なんだ、その肉の詰まりすぎた胸は!? 迫ってくるような肩幅は!? 血管の浮き出た腕は!?  美少年の見る影もないとは、このことである。 「うん、俺、もう、十八だから! 今年から大学生!」  彼は、カラリと微笑む。その笑顔だって、やはり、美少年の面影はない。 「そっか、十八……」  理美は、納得したかのように頷く。  そうだ。この十年、父親の頭は剥げてきたし、母親は三段腹だし、自分だって、どんなに栄養を考えた食事をしていても、健康診断の数値が悪くなってきた。しかし、それの何よりも、理美は、今この瞬間に、時の流れの恐ろしさを実感している。 「ええと、じゃあ、私はこれで」 「あ、俺もそっち! 帰り道だから、途中まで一緒に行こう!」  いきなりの衝撃的な出来事に、ふらふらと貧血まで感じる理美。  そのまま、立ち去ろうとすれば、渉太と名乗った男は、ニコニコと隣を歩いてくる。  こんな図体の大きな男性、その上、春先にタンクトップの彼を、隣に侍らせていたら、それなりに目立ってしまうに違いない。そうは思っても、彼女はそれを断ることは出来ず、せめてもを思って距離を取りながら、歩道を歩いていく。 「じゃあ、今日は久々に会えて、その、よかったよ」 「あ、理美おね、理美さん、もしかして、このマンション?」 「そうだよ」 「俺と一緒だ!」 「いっ! あ、そう……」  自身の住まいであるマンションを前に、ようやく彼と別れられると思ったのも、つかの間。  彼が言う言葉に、まだこの悪夢は続いてしまうのかと、彼女は、ため息をつきたくなってしまう。  エレベーターをあがった、八階建てマンションの六階。そこが、理美が両親と住んでいる家である。 「もしかして、昔と変わってないのかな? 俺の隣だ!」 「え、あっ、そう」  もう何が起きても驚かない。そう思っていたのに、彼はまた、衝撃をぶつけてくる。  彼が住んでいるといったその場所は、過去に彼が引っ越したはずの部屋であるのだ。 「うわぁ、すごく嬉しい。俺、一人暮らしって、初めてでずっと心細かったから」 「え、一人暮らし?」 「そうだ、よかったら、俺の部屋に寄っていってよ!」 「いやそれは、さすがにっ、って、うわっ!」  渉太はそう言うと、彼女の腰の辺りに手をやる。  きっと彼にとっては、羽を動かすような軽い気持ちで、彼女の背を押したのだろう。  けれど、男の腕は丸太だ。まるで押し出されるように、理美は彼の進める方へと動いてしまう。  その後、いつの間にか、彼の部屋のリビングへと通され、理美は床で正座をしていた。  なんだ、この状況は。  自身の、性癖の原点ともいえる小山内渉太。それと再会しただけでも驚きであるのに、彼は、筋骨隆々の青年に成長しており、その上、自身の隣の部屋に住んでいるという。  ああ、すべて夢であってほしい……と彼女は強く願った。  わずかに残された余力で室内を見渡せば、ここは、テレビと筋トレ用のグッズだけが、置かれているだけの簡素な室内だ。  飾りっけ一つない、男性らしい部屋。と思った時、そのテレビボードの上には、写真が飾られていた。 「う、うそ……」  いや、その発見により、これがすべて、嘘ではないということが分かってしまった。  シンプルな写真立てに飾られていたのは、彼の家族写真と、そしてもう一枚。  まるで漫画の登場人物のように整った顔つきをした小さな男の子が、女性の腕に抱かれている。 「これって……」  幼い少年は、記憶の中、そのままの渉太だ。そして、母親にしては若すぎる女性。それは紛れもなく、十年前の自分自身。 「あ、待って! 恥ずかしい!」  キッチンにて、茶を用意していた渉太は、彼女の視線の先に気づいたのだろう。慌てたように、テレビボードへ突進し、その写真立てを伏せた。 「うわぁ、もう本当……まさか、理美さんに今日会えるって思ってなかったから出しっぱなしで……」  渉太は、そう恥じらうようにブツブツと告げては、テーブルの上に、コップに入った二杯の茶を置いた。 「ほ、本当に、渉太くん、なんだね」  理美は、真実を突き付けられた犯人のように、いや違う。自身の家族がまるで真犯人だったかのように、そう告げる。 「そうだけど、理美さん、疑ってた? それなのに、男の部屋まで来たら駄目だよ」  渉太は、面白い冗談を聞いたように、笑い声をあげる。それに、いや強引に連れてきたのはあなたでしょう、とは、理美も言えない。 「そ、そっか、元気だった?」 「うん、元気!」 「そう、だろうね」  今更ながらの理美の問いに、明るい表情でそう告げる男。  その口調だけはどことなく、昔の渉太を思い出させる。  彼は、大きなその手には、小さすぎるコップを持ち、中身を飲み干す。 「理美さんも、元気そうでよかった。今は、何してるの?」 「えっと、今は、駅ビルに入ってる、花屋さん」  理美は、自身の現在の職をそう説明した。一度は、会社勤めをしたものの、途中で転職したのだ。 「え、花屋さん! すごいな」 「別に、すごいことはないよ」 「そうかな? 大変なお仕事だろうけど、理美さんに合ってると思う」  彼は、白い歯を見せて、モジモジと足を揺らしながら、そう微笑む。  そして、何かを決心したように、体を開き、帽子を外した。  その中からは、昔の通り、ふわっと綿菓子のような金色の髪が飛び出してくる。といっても、首から上のほとんどは刈り上げだ。 「あの、理美さん、俺、実は嘘をついてて」   彼は、申し訳なさそうに肩をすくめ、言葉を続ける。 「ここは、両親の持ち家で、こっちへの大学入学のきっかけで、俺だけが住むことに決めたんだ。つまり、嘘がなにかっていうと、実は、理美お姉さんが、まだ、ここのマンションにいるってことは、知ってたんだ」  彼が静かに語るその説明に、理美は気づく。  確かに、このマンションに住む理美に対し、彼は、さも偶然というように装っていたが、その、表情は、どこかぎこちないものであったのだ。 「だからいろいろ、びっくりしたフリしちゃって、ごめん」  男は、まるで小さな少年がそうするように、体を縮めてそう謝る。 「え、あ、それはいいんだけど、なんで、びっくりしたふりをしたの?」 「だって、嫌がられたら、ショックだなと思って」 「そ、そっか」  彼の答える理由が、すぐには理美の中で結びつかず、彼女は首を傾げたまま頷く。 「でも、やっぱり俺、理美お姉さんに再会できて、自分の気持ち、言わないと気が済まないって思えてきたから、言うね」  彼はそう言うと、手のひらで作った大きな拳を、その分厚すぎる膝の上で、プルプルと震えさせた。 「俺、昔からずっと、理美お姉さんのことが大好きです!」 「……え、へっ」  理美はそれに、再び大きすぎる衝撃を受ける。  けれど、真っ赤な顔をした渉太は、それに気づかないようで、言葉を続けた。 「理美お姉さんは、忘れてるかもしれないけど、俺はずっと忘れられなかった。昔、俺に、」  そこまで聞いた時、ふいに思い出される過去。  それは、本屋の時に起こしたフラッシュバック現象と全く同じものだ。 「お、お願いだから警察に突き出さないで!」  理美は、思わずそう叫んでいた。それは過去の少年と、そして現在の青年に対してである。 「え、なんで警察?」  彼は首を傾げるが、理美はそれの様子を見ることは出来ない。  強く目をつぶり、考えていた。  昔の自身が行ってしまったこと、今の彼も、それを覚えていたのだとしたら、許されることではない。 「えっと、どこまで話したっけ。だから、俺、今でも理美お姉さんのこと、大好き、なんだ」 「わ、わかったよ、責任はとる!」  彼の告白。そんなものは、気持ち半分程度でしか聞こえておらず、理美は叫ぶようにそう告げた。  「え、責任?」 「うん、なんでもするっ! そんなにお金持ってないけど、うちにあるお宝グッズ売り払ってでも、いくらでも払うから!」  理美は、まるで土下座をするように、深く頭を下げた。  すると、渉太は、その巨体を内側へと丸め、そして、彼女の顔を覗き込む。 「じゃ、じゃあ、恋人にして、くれたりもする?」 「へ?」  彼の言葉に、理美は動揺した。  恋人? 彼は本気なのだろうか。確かに思い返せば、彼は、何度も好きだと言ってくれていた気がした。  そんなわけがないだろう。昔はよく遊んだとはいえ、さっき会ったばかりの、十歳も年上の女だ。  なにかきっと、彼の中の過去の自分が、彼に罪深い幻想を抱かせてしまったに違いない。 「さすがにそれは、」  そこまで告げた時に、ふいに思いつく。  もしや、今の彼と、付き合ってしまえば、過去のあれも、同意の上ってことになるだろうか。  彼が早々に幻想から目覚めて、別れることになったとしても、一度付き合ったという経緯があれば、どうにかなるような気がする。 「わ、わかった!」  ピンチに立たされた時、人間というのは、苦し紛れに悪知恵が働いてしまうものらしい。彼女は、そう告げていた。 「やった! 嬉しい!」  渉太は、それに喜び、拳を高く上へと突き上げる。それによって、届くはずはない天井のライトが割れてしまうのではないかと、理美は心配した。 「そしたら、昔みたいになれるね、理美お姉さん」 「へ?」  理美へとゆっくりと近寄り、その肩に、寄り掛かるようにする渉太。  昔はこうして、その小さな体を、私に預けることが多かった彼だ。  けれど今は、重たい。とにかく重たい。 「理美、おねえさん、」  小さな口が、何かを伝えようとモゴモゴと動く。  彼は、頬を赤に染めて、下を向いた。ふわふわと揺れる、軽やかな金色の髪。 「いたずら、してくれる?」  そして、彼は大きなその手で、彼女の手のひらを優しくとり、自身の頬に触れさせる。 「っ、いや、さすがにまだ早いよ!」  彼の作り出そうとする甘ったるい雰囲気と、その言葉に気づいた理美。  叫ぶようにそういうと、勢いのままに立ち上がるのだった。     つづく
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