天冥聖戦 ファイナルシーズン新時代の産声

11/20
76人が本棚に入れています
本棚に追加
/205ページ
第10ー11話 幼馴染の神々 虎白は高天原を訪れていた。 そこで冥府を完全粉砕する最後の戦いについて話し合っていた。 虎白と側近の雪花が目の当たりにしたジアソーレという男の力を総大将アマテラスに話している。 宮殿とも言える巨大な社の中で日本神族達が集まっては真剣な表情をしていた。 「あれは全ての攻撃を跳ね返す様な能力だった。」 そう話す虎白を見ているアマテラスは白くて美しい顎を触りながら何かを考えている様子だった。 「その力は以前にも見たことがあるわね」と話す総大将はかつての大陸大戦の記憶を掘り起こしていた。 同時に皆も当時の記憶を呼び戻していた。 あの全ての始まりとも言える大陸大戦では多くの神族が戦場に倒れた。 海神が激しくぶつかり地球には大きな海ができ、雷神や太陽神がぶつかり天気が生まれた。 大地の神や岩や山の神が戦い、地形が生まれた。 そんな全ての起源とも言えたあの戦いで彼ら、日本神族が目の当たりにした「全てを跳ね返す様な力」を持つ神族と出会っていた。 眉間にシワを寄せた虎白は小さい声で「ルシファーの部下の天使長にいた」と話した。 大天使ルシファーは大陸大戦の後に裏切り者として冥府に堕とされた。 天上界に反逆したとされたルシファーはその怒りからサタンとなり天上界に挑み続けていた。 だがルシファーだけが自身の第八感である「記憶を守る能力」で真実を知っていた。 ゼウスに操られた皆を救うおうと必死に抵抗したが、ミカエル兵団と安良木皇国に高天原軍までをルシファー軍団だけで食い止める事はできなかった。 やがてミカエルはルシファー討伐のために天使の軍団と共に何度も戦った。 その際に戦死したルシファー軍団の幹部の1柱こそが「全てを跳ね返す能力」を持っていたのだ。 名はベリアル。 美しき天使だったベリアルもまた、ルシファーの能力の影響下にあったがために真実を知っていたが冥府に堕とされた怒りから魔力と邪気が飲み込んだ。 大陸大戦ではその圧倒的な能力を武器に何度もギリシア神族を追い詰めていた。 ミカエル兵団の全盛期とも言える最強の天使達による奮戦虚しく記憶のなくなったほとんどの神族達によって討伐されたベリアルは遥か昔に最期を迎えていた。 ベリアルの事を思い出していた日本神族達は皆が険しい表情をしていた。 今にも泣き崩れそうな虎白の背中をさする皆が「虎白だけのせいではあるまい」と責任を感じていた。 「で、でも神族を殺せば能力は殺した者が継承するんじゃなかったのか・・・」 それは謎の石板に書かれていた事で実際にギリシア神族を討ち取った恋華などは能力を継承していた。 だがベリアルを討ち取ったのはミカエルであって人間のジアソーレが継承しているはずがなかった。 首をかしげる一同は考えていた。 あの巨大な大戦で一体何が起きていたのか。 豪快に酒を浴びるように飲むスサノオが盃を床に勢いよく置くと「とにかくその人間を討てば終わるのだろう?」と話していた。 するとアマテラスが「それが難儀だから話しているのでしょう」と返した。 このやり取りを聞いている皆は笑みを浮かべていた。 エヴァを救った豪傑無双のミナカタが大きな声で笑いながら「わしもスサノオの単純な考えが良いな」と笑っていた。 「まったくこれだからそなたらは。 御大将、その人間が真にベリアルの力を持っているのなら策を練らねば。」 そう話すのはミナカタが頻繁に喧嘩を挑むミカヅチだ。 レミテリシアとアニャを救った雷と地震を操る力を持つミカヅチは単純な物言いをするスサノオとミナカタを見て呆れた様に笑っていた。 するとミナカタが「おうおう」と顔を近づけて詰め寄っている。 落ち着いた表情のミカヅチは「近いではないか」と淡々と返した。 「何をかしこまっておるのだミカヅチ!!」 「声が大きい。 私はそなたらの様に単純な話ではないと申しておる。」 「何を偉そうに。 岩を砕くが如く粉砕してやれば良いのじゃ!!」 「敵がベリアルの力を持っているのなら雲に岩を当てるが如く困難な話だ。」 議論する2柱を見て笑っている皆は笑みの裏に抱える大きな不安もあった。 天使長ベリアルの能力を持っている謎やあの力がどれだけ危険な事かも知っていた。 黙り込んで静かに考えている虎白の隣で座っている狼の神獣であるマガミと龍族の九龍は心配そうにしていた。 「虎白に考えはあるの?」と尋ねる九龍は人間の様な見た目になっている。 青い髪と白くて美しい肌に龍族特有の瞳を覗かせる九龍はじっと見つめていた。 「ジアソーレは何故かその力を持っていた。 でも俺には気になる事がある。」 「話してよ虎白。」 「俺の嫁の魔呂やスカーレットの中にいるベルカ。 あいつらも大陸大戦で戦死したはずなんだよ・・・」 虎白が小さい声で九龍とマガミだけに聞こえる声で話した内容とは長年疑問に思っていた事だった。 少女の見た目の魔呂はかつて生贄として捧げられた肉体に憑依したと本人が話していた。 12歳から13歳ほどの年齢に見える魔呂からは外見では想像もつかないほど大人の雰囲気が出ていた。 そして異次元の戦闘能力もまた見た目からは想像できなかった。 その魔呂の体に宿っている戦神こそ大陸大戦で共に戦った戦友であった。 虎白は石板の謎を桜火と共に解読していた。 オリュンポス事変以降からは日本神族も解読に加わっていた。 虎白の話を聞く九龍は驚いた表情をしていた。 「魔呂は僕の兄上の近くで戦死したはずだ・・・」 「ああ。 ベルカはミカエル兵団にいたはず・・・」 だがそうなると何故、魔呂は少女にベルカはスカーレットに宿っているのか。 それが最大の疑問となってくる。 恋華は能力を継承したにも関わらず。 虎白は立ち上がるとアマテラスにその疑問をぶつけた。 話を聞くアマテラスもまた、不思議そうな表情をしていた。 「確かに不可解ね。 でも白陸にいる彼女らは能力を継承しているかの様ね。 というより魔呂やベルカ本人の様ね。」 この不可解な謎を解明しない事にはジアソーレに挑むのは危険とも言える。 仮にジアソーレの肉体をなんとかして葬っても、後に誰かが同じ様に「全てを跳ね返す能力」を持って出現すればイタチごっことも言えるからだ。 虎白は兄の天白を連れて石板が保管されている白陸の本城の地下へと向かった。 白陸本城地下。 天白と虎白は石板の謎を読み解くために訪れていた。 暗い地下への階段をゆっくりと下っていく。 すると地下の扉の前で警備をしている皇国兵2柱が一礼すると扉を開けた。 「ど、どうなさいましたか? 天白様まで・・・」 埃(ほこり)まみれになりながら丁寧に石板を読み解いている茶髪の美女が驚いた様子で天白を凝視していた。 「何者だ愛弟よ」と問いかける天白は茶髪の美女を不審な目で見ていた。 人間がこの場で何をしているのか。 見た所、よく見かける虎白の美しい妻達ではない。 すると虎白が得意げな表情でこう返した。 「咲羅花家の生き残りだ。」 その言葉を聞くやいなや天白は驚いた様子だった。 たまらず詰め寄る勢いで顔を近づける天白は桜火の肩を掴むと勢い良く背中を向けさせた。 そして強引に桜火の着物を引き裂くほどの力で脱がせると桜火の白くて綺麗な背中にはそれは鮮やかな桜の花びらの入れ墨が入っていた。 赤面して顔を隠す桜火に天白は「これは自分で入れたのか?」と尋ねた。 慌てて着物を着た桜火は振り返ると変わらず赤面した表情で「あ、あのお」と言葉に詰まっていた。 「な、何と言いますか・・・この入れ墨は私が物心がつく頃には入っていました・・・父の忠義にも同じものが。」 桜火の言葉を聞いた天白は静かにうなずいていた。 「紛れもない咲羅花家の者だな」と小さい声で話すと虎白を見ていた。 「なあ桜火」と話しかける虎白の表情は真剣そのものだ。 固い表情で返事をする桜火は緊張した様子で何を言われるのかと落ち着きがない。 「記憶が戻った俺達は桜火の一族についても思い出したんだ。」 「ええ・・・私の一族ってなによ・・・この入れ墨に関係あるの?」 大きく息を吸った虎白は着物がはだけている桜火に丁寧に着せ直すと話を始めた。 咲羅花家とはかつて大陸大戦の際に知識を持っていた数少ない人間だと話している。 何を言っているのか理解できない桜火に更に続ける虎白は「人間は何もない虚無の存在だった」と続けた。 大陸大戦は神族による人間を守るための戦いだった。 これには神族による大きな計画があった。 真剣な表情の虎白は桜火を落ち着かせると話を続けた。 「俺達は人間に下界という土地を与えたんだ。 だが過去を知る人間がどうしても必要だった。 そしてその過去を守る存在として咲羅花を選んだんだ。」 大陸大戦で神族が戦った事は虎白達にとっては望む事ではなかった。 傲慢なるゼウスと優しきルシファーとの間で巻き起こったこの大戦は様々な神族を巻き込んだのだ。 日本神族の狙いは人間に知恵を与えて下界で暮らすために必要な事を与えるつもりだった。 だが想定外の大陸大戦によって神族は人間を守る事になった。 日本神族ではない別の神族による攻撃から。 それが他でもないギリシア神族だ。 ルシファーと深い関係にあった虎白がきっかけとなり日本神族によるギリシアへの宣戦布告が実現すると同時期にギリシア神族と緊張関係にあったエジプト神族も戦いに加わった。 並びに狼の神獣であるマガミと関係の深かった中華神族も加わり、虎白と関係の深かった北欧神族も加わった。 地球に降り立った全ての神々によって引き起こされたこの大戦争の顛末を書き残すために咲羅花家は日本神族によって知識を与えられていた。 大陸大戦の終結はゼウスの勝利によって終わった。 虎白の話に驚きが隠せない桜火は口に手を当てて目を見開いていた。 「桜火。 石板の続きが読めるか?」 「うーん。 船って書いてある。 これが咲羅花って意味だと思うの。」 桜火の父である忠義が死んでしまった今では石板を読める者はいなかった。 一人娘である桜火には解読方法を教えていなかった。 困惑する桜火は隣で石板を見ている天白に緊張した様子だった。 すると地下室の階段の上から声が無数に聞こえ始めていた。 「おーい虎白いるのー?」 「マガミか?」 階段を降りてきたのは日本神族達だ。 桜火はその光景に気を失いそうになっていた。 伝説的な神族が当然の様に目の前にいるのだ。 興奮せずにはいられなかった。 すると狼の神獣マガミが桜火を見ていた。 「もしかして咲羅花?」 「え、ええ・・・」 「生き残っていたんだ・・・ねえ虎白。 私達は命をかけたかいがあったね。」 あの大陸大戦で守った咲羅花の子孫である桜火を見て安心するマガミや九龍は安堵の表情を浮かべていた。 すると続々と階段を降りてくる日本神族の中から海の神であるワタツミが現れると首をかしげながら問いかけてきた。 「咲羅花の子孫よ」と口を開くと素朴な疑問をぶつけた。 「我らの日本で暮らしたのか?」 「い、いえ・・・私が暮らしていたのは地球でも日本でもないんですが・・・」 この会話を聞いていた虎白は「ああそうか!」とひらめいた様子で石板を見ていた。 石板に書かれる「船」と「咲羅花」の文字は何を意味しているのか。 虎白は「船で逃げたのか」と小さくつぶやくと岩の神であるミナカタが大声で笑っていた。 「船は飛べぬであろうが!! シナツヒコでもあるまいしな!!」 ミナカタが大声で笑う様子を周囲で皆がうなずいていた。 風の神であるシナツヒコならオリュンポス事変で春花と戦闘機隊を浮かせた様に船を空に飛ばす事ができるというわけだ。 しかしシナツヒコに当時船を空中に浮かせた記憶はなかった。 するとシナツヒコはアマテラスと虎白に「そもそもですぞ」と何か話を始めようとしていた。 「我らは皆、幼馴染であり互いの幼少期から年月を共にしてまいったな。 されど我ら皆が親の顔を知らんな。」 「うん確かにね。 親の名前がイザナミとイザナギという事は知っているわ。 でも会った覚えはないわね。」 さらなる疑問が浮上する中で日本神族達は自身の親の存在について話し合っていた。 石板にその答えが書いてあるのか。 桜火に読み解けという注目が集まる中でどうする事もできない桜火は今にも倒れそうだった。 困り果てる神族達は「一旦高天原に戻るか」という虎白の言葉から続々と階段を登り始めた。 「桜火悪いな。」 「う、ううん・・・力になれなくてごめんね・・・まさか私がそんな一族だったなんて・・・」 やがて階段を登りきった虎白は皆と共に高天原へ向かっていた。 道中でも虎白はじっと考えながら歩いていた。 桜火は下界の日本で暮らしていなかった。 半獣族達の様に違う世界で暮らしていたのか。 そして何故、重要な血統である咲羅花家がエリュシオンにいたのか。 ゼウスは何を狙っていたのか。 虎白は考えれば考えるほど迷宮へと迷い込んでいった。 険しい表情をする虎白の肩を掴んでから組み直したマガミが口角を上げて牙を見せながら笑っていた。 半獣族の様な見た目のマガミは美貌から見せる鋭い牙を覗かせながら「まあゆっくり考えなよ」と話していた。 「でも早く戦いを終わらせないとよ・・・」 「あんたは優しいねえ。 きっと唯我塚も喜んでいるよ。」 「ああ唯我塚か懐かしいなあ。」 唯我塚(ゆいがずか)とは大陸大戦の際に虎白達と共に戦った日本神族の1柱だ。 ニホンオオカミの神獣マガミとは深い関係にあった唯我塚は思いもよらない最期を迎えた。 なんと日本神族を裏切りギリシア神族の側に寝返ったのだ。 北欧神族のロキという男神もまた裏切り者の1柱だったが、その者と共にゼウスの側についたのだが唯我塚はその後些細な罪からゼウスに殺された。 マガミの古くからの親友であったはずなのに何があったのか。 虎白は唯我塚の事を思い浮かべていた。 「あんなお前の事が好きだったやつが裏切る事だっておかしい。」 「でしょー? 私は寂しいよ。 また唯我塚に会いたいよ。」 「俺だってフレイヤに会いたい・・・」 声を震わせてつぶやいた虎白は「謎を解明しよう」とマガミに話すと頬を舐めて「そうだね」と返した。 幼少期から同じ時間を共にした日本神族の固い絆でなんとしても弱き皇帝である鞍馬虎白の悲願を叶えようとしていた。 「聞こえるのか虎白よ。」 「ああ?」 「どうしたー?」 「マガミ聞こえないか?」 白陸を出て安良木皇国を歩いている時の事だった。 虎白が目を向ける方向には天白の居城である鞍馬城が見えていた。 突然の事にマガミや九龍が不思議そうにしているが虎白は何かと話していた。 「ああ息子よ。 大きくなったではないか。」 「はあ? 待てよどこにいるんだ?」 「ずっと見ておったぞ。 城にある2本の大木でな。」 その声は隣にいた天白にも聞こえていた。 気がつけば同行していた他の兄達もじっと何かを聞いている様子だった。 すると恋華が走ってきた。 「あなた聞こえているの?」 「聞こえている。 マガミ達には聞こえてねえみたいだ。」 「子供達よ。 原初の大木の元へ来なさい。」 言葉に従う様に虎白や恋華達は進んだ。 アマテラスや他の神族は高天原へと戻っていった。 困惑した様子で鞍馬城の城下にそびえ立つ巨大な大木の前に兄妹達は立っていた。 天白を長男とする9柱の兄弟と天白の正室にして実の妹でもある天華を長女とする9柱の姉妹の18柱の狐が大木を見上げていた。 広い世界で見た事のないほど大きな木が鞍馬城には2本も立っているのだ。 皇国ではこの木を神聖なものとして大切に守ってきた。 だがこの木が神聖なる理由はかつて地球に無数に生えていた木だったからだ。 大陸大戦によって木々は破損してしまった。 残された2本の木を皇国は大切に守り続けていた。 「こんな昔からある木が何を話してんだ?」 「さ、さあね・・・昔からこの木はいつも見てきたけど。 話した事なんてなかったわよね?」 困惑する兄妹達を前に大木は「我が子よ」と話を続けていた。 天白が「誰ぞ宿っておるのか?」と問いかけると大木からは男女の笑い声が聞こえていた。 「無事で何よりぞ」と返す男女の声は更に驚く事を続けた。 「我らは方舟を作らせて子らを次なる星へ向かわせた。 地球と呼ばれる星へ。 我らはそなたらが父と母だ。 我が名は鞍馬王白だ。 そなたらの父親だ。」 唖然とする兄妹は大木を見上げて目を見開いていた。 何故なら言動ではなくその気配から親とわかるからだ。 いつも感じていた兄妹の気配と瓜二つの気配が木から放たれているのだった。
/205ページ

最初のコメントを投稿しよう!