天冥聖戦 シーズン1序章   消えた神族と悲劇の少年

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第10話 霊界での大運動会  天真爛漫すぎる笹子は、疲れたのか新納におぶられて眠っている。一同は、海を後にして、さらに進んだ。  目的地と言える明白な場所があるわけではないが。 「なあ竹子、新納。 俺達もどこかに拠点でも置くか」 「うんそうだね。 そういえば最近怨霊を見かけないと思わない?」  最後に襲われてから、既に四日ほど経過する。何処へ行っても現れ続けた怨霊の群れは、どういうわけか姿すら見かけなくなっていた。  不審に思っている一同は、逆に彼らを探すかのように探索を続けたが、一体とて見つけることはできなかった。やがて一同は、それなりに栄えた街を見つけると、大きな学校を拠点にするために足を進めた。 「ここなら周囲を見渡せるし、銃も撃ちやすいな。 怨霊が来ても、校庭におびき出せば、暴れやすいな」 「ねえ虎白。 校庭で暴れるなんて、昔祐輝殿が観ていた不良映画を思い出すね」  そう呑気なことを話している竹子は、祐輝の話しをしても明るい表情を保っていた。笑みを浮かべる竹子を見た虎白は、安心した様子で頭を優しく撫でた。  嬉しそうに前髪を触って、背中を向ける竹子は、校舎内へ入っていくと安全を確認している。 「問題ないよ。 やっぱりここにも怨霊は一体もいない」 「このまま、消えてくれるといいけどな」  一同は、学校を拠点とした。体を休める場所を手に入れた一同は、防御を固めて怨霊に備えた。  それから一週間ほどが経過したが、怨霊は変わらず一体たりとも姿を見せなかった。気がつけば、とんがり帽子の兵士達にも気の緩みが見え始めていた。  もう怨霊はいない。昔のように通常の日々が戻ったのだ。そう、誰もが思い始めていた。 「よお竹子! 今日は屋上で和歌でもたしなむか?」 「いいねえ! 天気も良いし楽しみだね」 「ねえ新納ー! 運動会しようよ!」 「よかよか! じゃあ兵隊集めて誰が一番になるかやるか!」  気がつけば平和な時間が流れ始めていた。赤いハチマキを頭に巻いて、校庭を走り回る笹子を見て笑っている。  そんな時だ。  屋上で見張りをしている、とんがり帽子が絶叫した。 「て、敵襲! 全方向から!」  束の間の平和は、一瞬にして崩れ去った。和歌を読むことも、運動会も全て終わりだ。  徒競走なら確実に一等であろう速度で、階段を駆け上がった虎白が屋上へ飛び出すと、学校の周囲を埋め尽くすほどの邪悪な存在がいた。 「ま、待て何か様子がおかしいぞ」  瞳孔を開いて、周囲を見渡す虎白の鋭い瞳に写っている邪悪な存在は、今まで相手にしてきた者達とは明らかに様子が違った。  腹の底まで響くような、低いラッパの音が鳴り響き、足音が見事なほど一致している。集団の各所にそびえる黒い旗には、何か印が描かれ、誰がどこにいるのかわかるようになっている。 「あ、あれは軍隊だ......」 「第一隊! 攻撃準備! 敵を建物の外へ出すな!」 「敵だと? おい連中はなんだ!? 誰かあいつら見たことないのか!?」 「あんな黒くて統一感のある軍隊は初めて見たよ......というか怨霊が軍隊を持っていたなんて知らなかったよお」  隊列を組んでいる怨霊の軍隊は、美しいまでに肩を揃えて立っている。各所に黒い馬にまたがった指揮官らしき者までいる。銃こそ持っていないが、長槍や盾を持って武装する怨霊の軍隊の数は、新納のとんがり帽子の兵隊の三倍はいるだろうか。 「しばらく静かだと思っていたら軍隊用意してたのかよ!」 「どげんすると鞍馬どん!?」 「この数でまともにやり合ったら全滅するに決まってるだろ......一点突破してこの場を脱するんだ」  屋上から目を凝らして、逃げ道を探す虎白は、街の外れにある山を見ていた。あの場所まで逃げれば、怨霊の軍隊も数を活かせないのではないか。そう考えた虎白は、新納に話してとんがり帽子達を集結させた。 「絶対に立ち止まるな。 相手は軍隊なんだ、止まったら直ぐに殺される。 俺が先頭を走るからみんなついてこい。 行くぞ!」  校庭へ飛び出した虎白は、馬にまたがる指揮官らしき怨霊を斬り捨てると、さらに兵卒共も蹴散らした。自慢の二刀流を、勇猛果敢に振り続ける虎白に従って一同は、この絶望的な状況から脱出を試みた。
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