天冥聖戦 シーズン2      犠牲の果ての天上界

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第2ー15話 冥府による反撃開始 始皇帝が作り出した天上軍が積年の怒りを爆発させて冥府軍へ果敢に襲いかかっている一方で虎白達にも異変が訪れていた。 迷いの森を背後に戦っている二柱の神族と一人の天使長を前に冥府軍は逃走したかに思えた。 背を向けて走り去っていく姿は一見すると敗走軍のそれだ。 やがて死体の山を築き上げた虎白は涼しい顔をして刀を鞘に戻した。 「虎白様の刀は随分と安物ですね・・・」 「霊界で拾ったんだ。」 「そうだ天王様が刀を保管しているんじゃなかったかな。」 すると口紅でもしているかの様にオレンジ色に染まっている唇に顔を近づけると「早く言え」と冥府に来る前に回収したかった様だ。 それもそのはず既に霊界で拾った刀は刃こぼれしている。 二十四年も封印され、記憶の大半が消えているにも関わらず、本能的に刀を扱える虎白の刀術は凄まじかった。 しかしその強さに対して持っている刀が追いついていなかったのだ。 冥府軍の鎧を貫く際にも深くまで刺さらないなんて事も珍しくなかった。 なまくら刀をぼんやりと見つめる虎白がふと目をやった先には冥府軍の死体の山で座る着物を着た少女が不気味なほど視線を向けていた。 「虎白様!! あいつは!!」 莉久が中性的な声を響かせると、虎白は頭を抑えてその場に片膝をついた。 六番隊天使長の甲斐も死体の山に座る少女を見ると青ざめた顔をしているではないか。 それに対して竹子と優子は首をかしげて謎の少女を見ている。 「あの娘は優子よりも年が下かな?」 「そうみたいですね姉上。 お初?」 優子がふとお初を見ると赤面どころか蒼白している。 色白の肌を通り越して青くも見える忍者の表情を見た優子もいよいよ謎の少女への異常性に気づき始めた。 冷静に考えれば十六歳の優子よりも年下に見える少女がこの様な惨劇の場で平然と座っている事がおかしいのだ。 砂場にでも座っているかの様な表情をしているが、小尻の下にあるのは砂ではなく数分前まで生きていた冥府兵の死体だ。 やがて頭痛から回復したのか虎白がふらふらと立ち上がると発した言葉に竹子は驚いた。 「逃げろっ!!」 「え? で、でも一人だし私達は七人もいるよ?」 先程まで三人で数十人を越える冥府兵を軽々と倒していたにも関わらずだ。 優子よりも小さい少女を相手に戦慄している様はあまりにも不可解だったが、次の瞬間にはその意味がわかる事になる。 困惑した様子の竹子に向かって走ってくる虎白の切迫した表情が一瞬にして変わった。 「あははー。 久しぶりねー虎白に莉久じゃないのー。」 竹子の綺麗な小顔に飛び散ったのは虎白の斬り裂かれた背中から吹き出た白い血液だ。 何が起きたのか謎の少女は死体の山から次の瞬間には虎白を襲っているではないか。 まるで瞬間移動でもしたかの様に現れた少女の瞳は真っ赤な血液で染まったかの様に赤く光っている。 その場に崩れ落ちた虎白を見ている竹子は慌てて刀に手を当てたが、何やら感触がいつもと違う事に気がつくと下を向いた。 手元を見ると既に刀に触れている何者かの手があるではないか。 青ざめたまま、顔を上げると目の前には少女が笑っていた。 「あなたは見た事ないわねー。」 「ひっ!?」 「おりゃー!!!!」 戦慄している一瞬の間に甲斐が長槍を少女に向かって振り抜いた。 すると空中に舞うと槍先に飛び乗った。 体が紙にでもなったかの様に軽々と浮き上がった少女は年上の姉に遊んでもらっているかの様に楽しそうに笑っている。 しかし言葉の節々から伝わる威厳というべきなのか奇妙な風格すら感じさせる。 槍先で笑う謎の少女は竹子に視線を向けると「自己紹介させてもらうわね」と言葉を発した。 「私は魔呂っていうのよー。 十二使徒にして戦神の魔呂よー。」 十二使徒とは冥王に仕える十二名の戦士だ。 その魔呂が眼前にいるという事は冥王ハデスによる反撃が始まったという事になる。 魔呂は子供の様な外見だが戦神なのだ。 それを証明するかの様に虎白のい背中を一瞬にして斬り裂いた。 愛する虎白から流れる白い血液に驚き、何よりも斬られた事に驚いている竹子は戦神に返す言葉すら見つからずにただ戦慄している。 だが次の瞬間だ。 風を切る甲高い音と共に魔呂の背後に姿を見せたのは莉久だ。 体を尖った車輪の様に丸めて高速回転で襲いかかる莉久の強烈な攻撃を片手で受け止めた魔呂は素手なのだ。 「第六感。」 そうつぶやくと莉久の名刀をいとも簡単に素手で受け止めて、小さな体ではとても扱えそうにない長刀を背中に背負う鞘から抜いてみせた。 変わらず瞳は血の様に染まっている。 魔呂の襲来で一変した空気は氷の様に冷たく、不気味なほど静寂が保たれている。 莉久と甲斐が武器を構えるとそれに続いて竹子と優子も刀を抜いた。 夜叉子は着物の帯に差している短刀に手を当て、お初も背中に差す忍者刀を構えている。 だがそれでも魔呂は楽しげに笑っているではないか。 「楽しいわねー。 今からあなた達の瞳から命の炎が消えると考えると興奮すらしてしまうわー。」 今にも莉久が襲いかかりそうにしていると、戦神は倒れる虎白に近づいて白い髪の毛を掴んだ。 「何しているんだ!!」という莉久の絶叫を無視して持ち上げると地面に顔を叩きつけ始めたのだ。 その光景にたまらず襲いかかった一同は更に驚愕する。 魔呂は虎白を掴んだまま空中に飛び上がると、森の中へ入っていったのだ。 「追え!! 絶対に逃すなよ!!」 真っ先に迷いの森へ入った莉久に続いて一同はまたしても謎多き森へ舞い戻る事になった。 どんな時でも冷静だった莉久は我を失ったかの様に猛追していくが、森に入って直ぐに静寂に包まれた。 この迷いの森はいつだってそうだ。 入る者達で遊んでいるかの様に静寂と混乱を操っては静観するのだった。
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