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それうちの父、とか言えない
「ちょ、これ聴いてみて! めちゃくちゃかっこいい。死ぬ! 聴くだけで耳が妊娠する!! ヤバい!」
「ほんと、好きだねー」
「いやいやいや、だって本当にヤバいんだって。溶けるって、この声」
はあーん、と片耳にイヤホンをしてスマホからキャラソンを流しながらとろけているのは、この春高校に入学してから仲良くなった吉田千代だ。とろけているのは春の陽気のせいじゃない。イヤホンから流れる声のせいだ。
私はというと、もう片方のイヤホンを強制的に貸されてキャラソンを聴かされている。聞こえてくるのは聞き慣れた声だ。
「良すぎるでしょ。藤沢和孝! ああー! ヤバい! ヤバい! ヤバみがすごい!」
画面をのぞき込むと、他の視聴者も同じような状態になっているらしく、動画が見られないくらいの弾幕が発生している。
「うああああああ!」
「ちょ、ちーちゃん! ここ、教室、教室! そんな大声で叫ばない!」
と、言ってみるものの千代が叫んでいるのはいつものことなので、というか他の子達も昼休憩で結構ざわめいたりしているのでそこまで目立っているわけでは無い。
しかし、本当に千代は声優の藤沢和孝が大好きだ。もはや毎日といいほどキャラソンを聴いて身悶えている。そのうち本気で教室の床で床ローリングでもしないか不安になるくらいだ。
なんだかんだと毎日こうしてオススメされて一緒に聞かされている。
千代が幸せならそれはそれでいいのだが……。
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