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レトロモダンな店内は、モダンジャズが静かに流れ、洗練された大人の雰囲気を漂わせる落ち着いた空間だった。
バーカウンターの中でバーテンダーが酒を作っていた手を止め、俺を一瞥し、小さく会釈をする。俺も会釈を返し、なるほどこれは関根が来たがるはずだ、と納得しながら、カウンターの一番奥を陣取った。
思いのほか広い店内に客はまばら。いくつかあるテーブル席の一方は、中年男女のカップルらしいふたり連れだ。もう一方には若い女がひとり暇そうにカクテルグラスと戯れている。
俺は彼女に背を向けるようにカウンターの一番奥に腰掛け、シングルモルトのロックをオーダーした。
ドアベルの音がして顔を向けると、外で電話をしていた女が店内を見回している。どうやらテーブル席の女の連れらしく、手招きされて軽く目を細めた。
カウンターから出てきたマスターが、ふたりの元へカクテルを運んでいく。
「瑞稀ちゃん、いつもの」
「ありがと。マスター」
静かな店内では、否応なしに彼女たちの会話が耳に入る。
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