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第二話 彼女と俺の秘密
感じの好い人だなと思った。
カイのご主人は引っ越して来たときに、うちの湊くんにつまらないものですが、とお菓子を持ってきた。
玄関でやり取りする二人を、私は隠れて見ていたのだが、彼女からふんわりと雄猫の香りがした。
私は湊くん以外の生き物に今まで関心を持つことはなかったけれど、カイのご主人には興味を持った。
誤解が生じるといやなので説明すると、私は彼女の後をつけたわけではない。
ある日アパートのベランダで夕暮れの空をぼんやりと見ていたら上の階からカイの声が聞こえたのだ。
「みゃ~お」
私が声をかけると彼は初めとてもよそよそしくて、なんだかうちの湊くんみたいだった。
「そっちへ行ってもいい?」
「・・・」
反応がない。
本当に湊くんに似ている。
黙って私のことを見下ろす彼に、ベランダの手すりと配管を伝って近寄ってみると、こっちに来たらダメだと威嚇された。
「どうしてダメなの?」
「ダメなものはダメだ」
暇つぶしになると思ったのにつまんないの。
カイの最初の印象は最悪だった。
相手にしない。
そう決めていた。
だけどしばらくの間、凛に放っておかれて、退屈だったというか、正直構ってほしかった。
彼女の仕事が忙しいのは分かっているが、もう少し甘えさせてくれてもいいのにと物足りない気持ちだった。
「みゃお~(こんにちは)」
ベランダで日向ぼっこをしていると、その日も下の雌猫はしつこく声をかけてきた。
「・・・」
俺は自分以外の生き物に振り回されるのが好きではない。
「みゃお~」
無視しているといつものように配管を伝って登ってこようとするのでアブナイぞと言った。
「みゃ~」
配管はつるつると滑るようで、彼女は失敗を繰り返しながらも徐々に上手くこちらのベランダに来られるようになった。
一匹で穏やかに過ごしたいと思っていたのに、雌猫は俺の気持ちがわかると言って、気が付くと常に一緒にいるようになった。
凛に相手にされていないことを忘れてしまえるぐらい雌猫といるのが心地よくなり、今ではいい出会いに感謝しているが、一つ気がかりなことがある。
「気にしなくていいよ」
雌猫はそう言うのだが、どうやら俺は彼女の飼い主にあまり好かれていない。
彼は俺を見ると決まってイヤそうな顔をして『ブス』と言ってくる。
雌猫はそんなときいつも彼に俺の名前がカイだと言ってくれるのだが、もちろん通じていない。
「湊くんはカイのこと嫌いじゃないからね」
「どうしてわかるんだ?」
そう問う俺に、雌猫は彼は不器用なだけなの、カイと一緒でと言った。
「・・・」
「カイはところで私の名前知ってる?」
「・・・」
雌猫は雌猫だ。
「リンだよ」
「!!凛?」
目を丸くする俺に彼女はカイのご主人と一緒だねと笑った。
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