1

2/3
前へ
/7ページ
次へ
* * * *  朝になり、優樹はゆっくりと目を覚ました。カーテンの隙間から差し込む光に目を細めながら、枕元のスマホを見る。朝の七時。思ったより早く覚醒してしまったため、もう一度眠ろうとした時だった。 「にゃっ!」  突然女の子の声がして優樹が飛び起きると、ソファベッドの上で同じように飛び上がっていた女の子が目に入る。 「だ、誰⁈」  昨夜のことをすっかり忘れていた優樹が叫ぶと、女の子は驚いたように振り返る。  それからお互いがそれぞれの記憶を辿るように黙ると、二人揃って下を向いた。  昨日の夜……そうだ、家の前に女の子がいたから、なんか放っておけずにソファに寝かせたんだ。一応友達が来た時用の布団を彼女にかけて、寒くないようにエアコンをつけて寝たんだっけ。  記憶を取り戻した優樹は、改めて女の子の方へ目を向ける。高校生か大学生くらいだろうか。軽くメイクはしているようだが、崩れるほどのものではなかったため、ツヤツヤの頬が眩しいくらいだ。まぁ見た目だけで判断すればギャルっぽいという意見が妥当だろう。  彼女は布団で口元まで覆い、怯えた目で優樹を見ていた。とりあえず優樹は彼女を怖がらせないようベッドの上であぐらをかくと、壁に寄りかかりながら口を開く。 「昨日の夜、君が俺の部屋の前で寝てたんだ。あのままじゃ凍え死んじゃうかと思って、とりあえず部屋に入れちゃった。警察を呼ぶか悩んだけどね」 「け、警察はダメ!」  女の子は焦ったように布団から顔を出すと、大きな声で叫んだ。  警察がダメってことは、やっぱり未成年……高校生なのかな。  優樹はそう感じながらも、敢えて言葉にはしなかった。 「大丈夫。呼ぶつもりはないよ。でもなんであんなところで寝てたの? 部屋を間違えたなら、相手の人が心配してない?」  そう問いかけると、女の子は下唇を噛み締める。それから意を決したように、大きくてクリッとした瞳で優樹の目を真っ直ぐに見つめた。 「……わ、私はあなたに会いに来たんです!」 「俺? でも俺、君のことなんか知らないよ」 「そ、そんなことないです! 私を見て何か思い出しませんか⁈ ほらっ、この毛並み! 可愛い耳!」 「耳って言うけど、それお団子でしょ? 毛並みだって染めてるだけだよね?」 「ち、ち、違っ……!」 「まさかさ、ばあちゃんの猫とか言わないよね?」  優樹が口を開くと、女の子は目をキラキラさせて笑顔になる。 「大正解です! どこをどう見ても猫のみーちゃんでしょう!」  優樹は眩暈がした。そんな現実離れしたことがまかり通ると思っている子がいるなんて……。昨日から何度目になるかわからないため息をつくと、がっくりと肩を落とした。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

70人が本棚に入れています
本棚に追加