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 帰宅時間を短縮するために実家を出たのが三年前。祖母の家はその近くだったので、優樹も昔はよく出入りしていた。しかし就職してからはそうもいかず、実家にすらほとんど帰らなくなっていた。  久しぶりに電車に乗って祖母の家に行くと、昔と変わらない家屋に懐かしさを感じ、ドアを開けた時の匂いに安心感を覚える。  昔ながらの板張りの床は、冬だとより冷たさを感じた。 「ばあちゃーん! 優樹だけど、勝手に入るからねー!」  すると遠くの方からパタパタとスリッパの足音がし、驚いたような表情の祖母が出迎えた。 「優樹じゃないの〜! 久しぶりだねぇ、元気だった?」 「うん、仕事が忙しくて帰るタイミングを逃してた。入っていい?」 「もちろん。でも突然どうしたの?」  居間に通され、石油ストーブの暖かさの中、優樹はこたつに滑り込んだ。 「これこれ。ばあちゃんの家の冬と言ったら、やっぱりこれだよね〜」  ニヤニヤしながら呟く優樹の前に、祖母はお菓子と緑茶を置く。その時、優樹の膝の上に猫のミーちゃんが飛び乗ってきた。 「おっ、ミーちゃんも久しぶりだね。相変わらず美人さんじゃないか」  栗色の毛並みを撫でまわしていると、ミーちゃんは目を細めながら優樹に何度も体をすり寄せる。その姿を見ながら、優樹は苦笑いをした。  ばあちゃんの家のミーちゃんは、おすましさんだけど意外と甘え上手なんだ。あっちのみーちゃんは……なんとなく寂しがりやなくせに、強がってる感じかな。 「で? 年末年始も帰らなかった優樹が、どうして突然帰って来たりしたの?」  優樹の正面の座椅子に座ると、同じようにこたつに入ってお茶を啜り始める。その目は優樹をしっかりととらえていた。 「実はさ、昨日の夜、家の前にがいたんだよね」  祖母の反応を観察しながら口を開く。すると案の定、祖母は動きをピタリと止めてから口元に笑みを浮かべた。 「ふーん、そうだったの。猫のみーちゃん、かわいかったでしょう?」  優樹は眉をひそめる。普通は『ミーちゃんならここにいた』とか、『どこかに行っちゃってた』とか言うはずなのに、そうではない反応が返ってきたことから、祖母が彼女を知っているのだと確信した。
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