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 ミーちゃんの顎を指で撫でていると、ハート型のネームプレートについた鈴が綺麗な音を響かせる。  祖母は背後の棚から写真たてを取り、優樹の前に置いた。それは何年か前に親族が集まった時の写真で、この頃はまだ大学生だった。しかし童顔なためか、よく高校生に間違われていた。 「猫のみーちゃん、この写真を見てね、優樹に一目惚れしちゃったらしいわよ。あなたのことを聞かれたから、いろいろ話しちゃった」 「一目惚れって……写真で? しかももう何年も前の写真だよ。あり得なくない?」 「それがねぇ、女子高生にはあり得るのよ。私もびっくりだったけど」 「あぁ、やっぱり女子高生なんだ」  うっかり口を滑らせてしまった祖母は、パッと両手で口を塞ぐが、時すでに遅しだった。降参したように手を挙げるとため息をつく。 「三月には卒業するんだけど、なんか親とうまくいってないらしくてね。半年くらい前だったかしら……コンビニの前でうずくまったまま動かないあの子に私が声を掛けたの。具合でも悪いのかと思ったら泣いていたのよ。そんな子放っておけないでしょ? そうしたらなんか意気投合しちゃって、それ以来のお友達」  そうか……強がってる感じの裏にはそういう事情があったわけか。それにしたって、一目惚れっていうのは意味がわからない。 「あなたのことを話すたびに、みーちゃんが『会ってみたい』って言うから……」 「……何かしたの?」 「優樹から届いた年賀状を、テーブルに置いたままトイレに行ってみた」  なるほど。彼女の訪問は、祖母によって仕組まれたことだったんだな。そう思えば納得する。舌をペロッと出す祖母からは、反省の色が全く感じられないのは癪だが。 「あの子、すごくいい子よ。ただねぇ、今手を出したら犯罪になっちゃうわね〜」 「あのね、あの子俺より七才も下だよ。手なんか出すわけないじゃない」 「あら、意外と女の子って大人なんだから。今度ちゃんと話してごらんなさいよ。優樹の方がメロメロになっちゃったりしてね〜」  祖母がケラケラ笑い出すと、急に廊下からミシッという音が聞こえた。ガラスの引き戸の奥には何も見えないが、祖母は何かを感じ取ったように口元に笑みを浮かべる。 「そうだ。スーパーの焼き芋が焼きあがる時間だわ! 優樹、ちょっと留守番しててくれる?」 「えっ、いきなり⁈」 「あそこの美味しいのよ〜。たくさん買ってくるから待ってなさい!」  優樹の返事も待たずに、祖母は手を振りながら部屋から出ていってしまう。優樹の膝に乗って微睡んでいたはずのミーちゃんも、後を追っていなくなってしまった。
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