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3話 写生会に行こう
新しい中学校に転校して来て、数日が経ち、今の生活にも慣れて来た。少しずつではあるけれど、クラスメイトとも話せるようになって来て、楽しい生活を送れるようになっていた。ときどきキモチが落ち込むこともあるけれど、駿人くんやヒナちゃんのサポートのおかげで、なんとかキモチを保てている。二人は、わたしがイジメを受けていたことはまだ知らない。いつか話さなくてはいけないことだと思うけれど、知られたくないというキモチが先行して、話せずにいる。二人ともっと仲良くなりたい。自分のことも知ってほしいし、二人のことももっと知りたいとも思う。そのためにも、わたしはもっと強くなりたい。強くならなくちゃいけない。
昼休み、わたしは駿人くんとヒナちゃんに誘われて、あるところに足を運んでいた。そこは体育館のとなりにある武道館だ。そこは剣道部や柔道部などが活動している場所だ。そこになんの用があるのか。二人は会わせたい人がいるということではあったけれど、ジャマにならないか心配になってしまっていた。扉の窓から、覗き込むと、一人の男子生徒が真剣なまなざしで素振りをしていて、その姿に負けたくないという雰囲気がここまで感じさせられて、思わず息を呑んでしまった。駿人くんは、そんなわたしの様子を見てクスリと笑い「じゃあ、中にはいろうか」と声をかけ、ガラリと扉を開けた。この人に遠慮というのはないのだろうか。怒られるのではないのかと心臓をバクバクさせながら、目を閉じていた。不意に肩にトントンと叩かれ、わたしは思わず「ひっ」と悲鳴をあげ肩を震わせた。ゆっくり目を開けて顔を上げると、そこに驚いた顔をしている男の子が立っていた。
「すまない。恐がらせてしまったな」
男子生徒は申し訳なさそうな表情を浮かべて、彼は一歩うしろへとさがって行った。近くで見ると、体格もいいからか駿人くんと身長が同じくらいなのにより大きく見える。思わず、駿人くんのうしろに隠れてしまっていた。失礼なことだとわかっているはずなのに、反射的に動いてしまっているのだ。やっぱり初めて話す男の子は恐く感じてしまい、体が震えてしまう。男子生徒も困ったような表情を浮かべていた。どうしたらいいのだろうと困っていると、駿人くんが、わたしの頭をやさしく撫でてくれた。やさしくてとても暖かく心地よい手だ。不思議と心が安心することが出来る。だからだろうか。彼のことを信頼することが出来るのは。
「ハルちゃん、こいつ藤堂竜。僕達の友達。確かに雰囲気は恐いかもしれないけれど、結構いい奴だよ」
「恐いは失礼だろう」
「ごめんごめん。竜、この子、昨日話した水森晴香さん」
「あー、よろしく」
藤堂くんは軽く会釈し、わたしもつられるように会釈を返した。とても礼儀正しい人なのだろう。まだ彼に対して、恐いというキモチはあるけれど、駿人くんの背中からゆっくりと出て行った。背筋がピンッと伸びている彼に対し、わたしは自信なさげな猫背だ。それを見た藤堂くんがクスクスと笑った。
「なんだか水森さんって小動物みたいな子だな」
「小…動物…ですか?」
「褒め言葉だから落ち込むな」
「い、いえそ、その大丈夫です」
顔が熱くなった。赤くなった顔を隠すようにうつむいた。美人、癒し系の次は小動物と言われるとは思ってもいなかった。うれしいというよりもはずかしいというキモチが強いかもしれない。わたしが小動物ならば、彼は熊ってところだろうか。わたしは彼の目をジッと見た。練習をしているときの真剣なまなざしいう印象よりぼんやりとした印象だ。初対面ということもあるけれど、何を考えているのかわからない。悪い人ではないというのはわかったけれど、まだ警戒心が解けないでいた。警戒するわたしと同じく緊張する藤堂くん。それを見兼ねたヒナちゃんが噴き出すように笑い出した。
「二人とも固くなり過ぎだって。リラックスリラックス」
「わかってる。だけどな…」
「男のあんたがそんなに固くなっていたら、ハルなんて余計固くなっちゃうでしょうが。もう」
「す、すまん」
ヒナちゃんの言葉に藤堂くんは面目ない表情で肩を落とした。もしかしてと思うのだが、藤堂くんは女の子と話すのが苦手な人なのだろうか。小難しそうな人なのだと思っていたけれど、思春期を迎えた年ごろの男の子なのだと思うと、親近感というものを感じられた。わたし自身も、異性と話すのが苦手だ。異性ということを意識してしまい余計に緊張してしまうため、何を話せばいいのかがわからなくなってしまう。彼もわたしと似ているところがあるのかもしれない。彼自身も緊張してしまって何を話せばいいのかがわからなくなってしまうのだろう。そんなことを考えるとすごく親近感が沸いて来きた。彼の困っている表情に、わたしはおかしくなってしまい、フフフと笑ってしまった。
「ご、ごめんなさい。なんだかおかしくなってしまって」
「極端な人だな。あんたは…」
そう言って藤堂くんも笑い出した。駿人くんやヒナちゃんも、わたし達を見て笑い出したのだった。
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