4話 夏の日のキミ

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* 「あー! 悔しい!」  おやつ時、わたし達は学校の近くにある『甘味処 すみれ堂』にやって来ていた。試合後のミーティングを終え、今からわたし達は、ヒナちゃんを慰める会を開くことになった。女子バスケ部の試合は、最初、点数を取られ続けてしまい、かなり点差が離れてしまっていた。ヒナちゃんもマークをつけられてしまいなかなかシュートを決められず、苦々しい表情を浮かべていた。第二クォーターの途中で、ヒナちゃんは三年生と交代させられしまった。その後というもの、さっきまでの状況がウソみたいに点差を縮めて行った。第三クォーターや第四クォーターも接戦となっていた。そして僅差まで近づいたところで、試合終了となってしまった。チームに貢献することが出来なかったことや試合に負けてしまったことが重なり、かなり落ち込んでいる様子であった。わたし達は静かにヒナちゃんを迎え入れ、一緒にすみれ堂へとやって来た。昔ながらということもあって、懐かしい雰囲気が漂っていた。でもそれが安心することが出来る。そのためが学生や子ども連れの主婦、そして仕事の休憩時間なのかOL風のお姉さん達が来ていた。お店の中が、とても賑やかで繁盛をしている様子だ。違うお店にしたほうがいいのかと思ったけれど、三人の行きつけで、楽しいときや悲しいときは、いつだってこのお店だそうだ。共通の思い出があるということは少しだけ羨ましく思えるけれど、今こうしてわたしも加えてくれているのがすごくうれしい。 「ヒナはとにかく目立ち過ぎなんじゃないか。だから相手チームにマークされるんだよ」 「だってうちだって勝ちたい。もっとチームに貢献したいよ。そのためにもパス回してもらいたい」 「だからって、あんなにパスを要求していたら相手チームにあたしをマークしてくださいって言っているものだろう」 「そ、そうだけれど…」  藤堂くんの言葉に、ヒナちゃんは何も言い返せずうつむいてしまった。いつもだったら、もっと言い返しているのに、今回ばかりはかなり落ち込んいるようであった。『そんなにきつく言わなくても』と言おうとしたけれど、二人の関係性を考えると口にすることが出来なかった。新参者のわたしが口にしても、余計なお世話だし、ヒナちゃんのプライドを余計に傷つけてしまう。だからわたしは何も言えず、となりの席で口を開こうとすればすぐに結んでしまっていた。彼女のために出来ることがないことが虚しくて辛い。スカートをギュッと掴んでいる手をヒナちゃんがそっと添えてくれた。 「ハル、ありがと。何か言ってくれようとしたんでしょ。キモチだけで大丈夫。すごく嬉しいよ」 「でもわたし…」 「いいの。大丈夫。ハルはやさしいね。何か言おうとしても、うちのキモチを察してくれて堪えてくれたんでしょ。それだけでも十分だよ」  ヒナちゃんは、悲しみをガマンした目で笑った。その目がどうにも堪えることが出来なかった。わたしは悲しむヒナちゃんを抱き締めた。彼女には泣くのをガマンしてほしくない。そしていつもみたいに明るくみんなを照らしてほしい。今はただそう願うことしか出来なかった。ヒナちゃんは声を殺しつつも大粒の涙を流した。存分に泣いたら、一歩前へ進めるように、また笑えるように、わたしはゆったりと彼女の背中を摩っていた。かつて楓ちゃんや駿人くんがやってくれていたように。わたしは泣いている彼女に対し微笑みを浮かべた。彼女の悲しみも悔しさもすべて受け入れよう。そして一緒に笑ってあげよう。だってわたし達は、楽しいときも悲しいときも共有し合える友達なのだから。 「ねぇ、ヒナちゃん、ぜんざい頼まない? あとは…あっ、お汁粉ある。一緒に飲もうよ」 「…ハル、意外に渋いところあるわね…」 「う、うん。なんだか安心するというか。なんというか…好きなんだよね。」  言葉に詰まらせていると、ヒナちゃんが思いっきり噴き出し、声を出して笑い始めた。やっぱり彼女は笑顔がとても似合う。太陽のように明るく暖かい笑顔をするヒナちゃんが、わたしは一番好きだ。彼女が笑うと不思議とこちらまで心が暖かくなる。わたしもつられて笑みがこぼれた。 「ハルちゃんはすごいなぁ。もうヒナのことを手懐けているよ」 「駿人くん、その言い方、女の子に失礼ですよ」 「ご、ごめん」  謝る駿人くんに、わたし達は顔を合わせて笑い合った。こんな何げない日々が続いていい。心からそう思える。わたし達はぜんざいやお汁粉を追加し、ヒナちゃんの鬱憤を楽しげに聞いていた。みんな、笑顔でとてもキラキラとしている。今のわたしはどうだろうか。輝けているだろうか。いや、そんなことは関係ない。みんなが幸せに過ごせられるような環境を作りたい。そんな思いがわたしの胸に灯った。将来、どうなりたいかはまだわからない。だけれど、その思いが何かに繋がるかもしれない。その何かを見つけるためにもわたしは、今この一瞬一瞬を大切にしていこう。密かにそう心に誓うのだった。
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