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翌日、駿人くんはわたし達の家へと訪れた。
わたし達は縁側に腰を下ろし、楓ちゃんが用意してくれたまんじゅうをつまんでいた。昨日の今日で、わたしの中まだ気まずさというのかあって、うまく話しを切り出すことが出来ないでいた。駿人くんはまんじゅうをかじりつつ庭をぼんやりと眺めていた。きっとわたしが話しを始めるのを待ってくれているのだろう。わたしは、そっと食べかけのまんじゅうをお皿に置いた。
「あ、あの、駿人くん…、その…」
「ん?」
「そ、その昨日はごめんなさい。わたし…あんなに泣いたりしてしまって…」
「いいんだよ。別に。そういう日もあるだろうし。僕はぜんぜん気にしてはいないよ」
「でも…」
「ハルちゃんはもっと泣いてもいい。ハルちゃんは目を離すと一人で抱え込んじゃうタイプだから。だからいつも僕はキミから目を離さずにはいられなかった。それにさ。僕、ハルちゃんに初めて会ったとき、一目惚れしたんだよね。なんてキレイな子だんろうって。だから余計にほっとけなかった」
「駿人くん…」
「付き合ってほしいとは言わない。だけど、ハルちゃん。これだけは忘れないで。キミは決して独りぼっちなんかじゃないんだから。昨日、ヒナにやっていたように、僕はハルちゃんのことを支えるよ」
駿人くんは笑みを浮かべ、やさしくわたしの頭を撫でた。ごつごつとした大きな手。お日さまのように暖かく安心することが出来る。肩の力が抜け、頬が緩んだ。彼との間に置いた皿をどかし、わたしは彼に肩を寄せた。細い体型なのにとても逞しい。男の子だなと思わされる。駿人くんはわたしにとって初めて出来た男の子の友達。そして初めて好きになった人。少しだけ、希望が見えて来たように思える。楓ちゃんがこっちに越して来るように促してくれたから、彼と出会うことが出来た。そしてヒナちゃんや藤堂くんとの縁を結ぶことが出来た。それがどれだけうれしく尊いものなのか。わたしは笑う。ここにやって来て本当に良かった。心からそう思える。まんじゅうを手に取り、再び口へと運んだ。ふんわりとした香ばしい香りが口の中で広がり甘さが伝わってくる。
「ハルちゃん、幸せな表情しているね」
「幸せです。とっても」
「そっか。ならよかった」
駿人くんもクスリと笑った。
これから辛いことも苦しいこともたくさんあるだろう。でもこの幸せなキモチを忘れずにいたら、いつか道に迷ったとき道しるべになってくれるだろう。少しずつでもいい前に進んで行こう。今のわたしは、今までのわたしよりも強いわたしだ。挫けそうになったとき、支えてくれる味方がいる。もう独りぼっちの水森晴香はどこにもいない。わたしは前に進む。躓くことがあっても、わたしは歩いていく。みんなと一緒に心の底から笑い合えるために。
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