2070人が本棚に入れています
本棚に追加
「良かったの? 伊敷専務相手にあんな態度をとって、私なら何を言われても平気だったのに」
「花那はそうでも、俺は妻をあんな風に言われて平気でいられる夫じゃないんだ。それに……あれくらい強く印象付けて置けば、彼をうまく泳がせることが出来るかもしれないしな」
後の事を心配する花那に、颯真は意外にも余裕そうな顔をしていて。彼にも何か考えがあるのだろう、伊敷は扱いやすそうな男だから都合が良いのかもしれない。
ああも嫌な上司なら遠慮なく利用させてもらおうじゃないか、颯真はそう思いながら今後の事を考えて。
「あの人は涼真兄さんにもああだったのですか? とても兄さんより仕事ができるとは思えないけれど」
「いいえ、涼真さんにはいつもご機嫌取りのような事ばかり言ってましたよ。颯真さんにいつ自分の立場を奪われるかと、伊敷専務は気が気ではなかったようですから」
それはそうかもしれない。あの程度の人間が専務でいられるのは、反対派の親族が担ぎ上げてくれてるおかげでしかないはず。社長子息であり実力のある颯真が、専務の立場になるのも時間の問題だっただろう。
ならば、この状況は伊敷専務にとっては非常に有難い状態だという事になる。だからああも、大きな態度に出れていられるのかもしれないが。
「どうせ兄さんが帰って来るまでだ、ああしていられるのも」
「ええ、そうでしょう。涼真さんさえ戻ってきてくれればきっと……」
そんな高峰の言葉に、彼がどれほど涼真の事を評価しているのかが分かる。そして、誰よりも彼の帰りを心から待ちわびていることも。
最初のコメントを投稿しよう!