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「聞いていたらこんな風に驚いたりしませんよ。でも、兄さんは高峰さんが女性だと知ってるんですね」
「ええ、長い付き合いなので。まあ、彼の場合は私がどちらの姿をしていてもすぐに見破ってしまいますしね」
これだけ別人のように変わってしまう高峰を見破るなんて、涼真は涼真でちょっと普通ではない気がする。だが涼真にとって高峰はどんな姿でも高峰なだけ、それだけでしかないのだが。
やはり二人の絆は特別なものなのだろうと思いながら、颯真たちは奥のテーブル席に高峰を連れていく。カウンターの向こうにいる店長に目で合図すれば、店を貸し切りに変えてくれた。
「どうでした、伊敷専務は何か情報を持っていましたか?」
「そうですね、現状ではあまり詳しい事までは聞けなかったのですが。彼のプライベートな連絡先は頂けたので、そちらからアプローチしようかと思ってます」
高峰はひらひらと伊敷から渡された名刺を手で弄ぶ。まるで伊敷本人が彼女の手の上で踊らされる姿が想像出来て、颯真と花那は吹き出しそうになった。
「高峰さんに潜入してもらって正解でした、私ではこう上手くはいかなかったと思います」
「そんな事はないですよ、ただ私も颯真さんも、花那さんがあんな男に触れられるのが我慢ならなかっただけですから」
そう話す高峰はいつもと変わらない優しい笑顔だ。穏やかで優しく、冷静沈着……そして妖艶。彼女はいったい幾つの顔を持っているのか。
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