安らぎと癒しに包まれて

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「それで、兄さんは今いったいどこにいるんだ? ちゃんと食べて眠っているのか」 『……まさか颯真(そうま)からそんな心配をされるようになるなんてな、お前は随分変わったんだな』  確かに今まで兄である涼真(りょうま)を心配していても、颯真がそれを口にしたことはあまりなかった。それまではどこかで距離を置いていなければと考えていたせいかもしれないが、そんなに自分は変わっただろうかと颯真は考えてしまう。 「俺のことはいいよ、今心配なのは兄さんの方なんだ。それくらい分かってるだろう?」 『うん、ごめん。きっと父さんも母さんも怒ってるだろうね、俺がこんな事をして』  涼真の言葉には深い後悔のようなものも感じるが、どこか諦めたような声にも聞こえてくる。それが何を意味するのかまでは、彼との交流がほぼ無かった花那(かな)には分からなかったが……  同じ家庭で育った颯真には兄の言葉の中に隠された意味が理解出来たようで。 「あの二人の事が心配なら俺が何とかする、そんな事を気にして帰って来ないのなら――」 『違うよ、颯真。それは、違うんだ……』  昔から両親の言うことは絶対だった、それは跡取りである涼真に特に厳しく言いつけられていた事で彼が帰らない理由がそれなら自分がと思っての颯真の言葉だったのだが。  だが本当は颯真もどこかで気付いていた、涼真の思い悩んでいる理由はそれだけでは無いという事に。兄弟の中で誰よりも我慢強い涼真があの家を出ていく、それは余程のわけがあるはずだから。
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