8. 第二の男

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「聞いてる?」 「うん。いいよ、それで」 「それでって、ずいぶん適当……」 「俺はアズの通りに従うだけだよ。お前が望むなら何だってするって言っただろ」 そうして、須崎は梓の耳たぶを舐めた。 梓はくすぐったそうに身を引いて、さりげなく距離を取ろうとしたが、またすぐに詰められてしまう。 赤い舌が、梓の首筋を這う。 同時に、須崎の手が怪しく動いた。 「今日はしないよ」 ラックに積まれた荷物が邪魔をして、ふたりの下半身まではわからない。しかし、触れようとしている須崎を、梓が拒んでいるのは、上体の動きだけでわかった。 今日は、という口調でふたりの関係性が浮き彫りになる。 やはり、梓は須崎とも———— 「なに、生理?」 「面白くない」 素気なくあしらわれると、須崎はさすがに唇を尖らせて不満を表した。 「つっても、今年はぜんぜん神無月(こっち)来てくんないじゃん。やっと来たと思ったら男連れだし」 「変な言い方すんな」 「もうやったの? あいつと」 あいつというのが、自分のことを指しているのだとわかり、文太は息を飲んだ。 やはり須崎には、明確な敵意があったのだ。 「馬鹿いうな」 「そう? てっきりあいつとやりまくってるから来ないのかと思った」 そして須崎は甘えた声を出し、まるで猫のように、その体を梓に擦り寄せた。 「文太はそんなんじゃない。まだ山慣れしてないから面倒見てやれって、岳が気を利かせただけだ」 「ふぅん?」 「だから、あいつを放っておくわけにもいかないし。今日はもう……帰るから」 しかし須崎は、掴んだ腕を離さない。 ふたたび距離が近づいて、次の瞬間、とうとう唇が重なった。 「なんで? 放っておけよ。ひとりで帰るぐらいできるだろ」 「帰らないよ。俺が戻るまでずっと待ってるような奴だから……」 須崎は梓に抱きつくと、まるで子どものような執着を見せた。 顔を上げずに、彼の体に顔を埋めたまま、深いため息を吐き出す。 「やっぱむかつく……」 「なにが?」 「俺、あいつ嫌い。意地悪するかも……」 梓がため息をついたのが、上下する肩の動きでわかった。 そして同時に、全身の力が抜けていく。 須崎に体重をかけられていた上半身がしなり、傾いた。 須崎は待ってましたと言わんばかりに体重をかけて梓を押し倒すと、のし掛かった。
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