11. あざ笑う木立

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✳︎ 道幅は狭く、所々、途切れているところもあるから、慎重に踏み進めていく。 稜線からだいぶ標高を下げたためか、このあたりは樹林帯になっていて、鬱蒼としていた。 真っ直ぐに伸びた、細い幹をしたこの樹木は何という種類なのだろう。 地面をまだらな絨毯のように彩っている緑の葉の形状を見るかぎり、針葉樹であることは間違いないが、詳しいことはわからなかった。 しばらく歩いても、花らしきものは見当たらない。 さすがにそろそろ引き返そうか、いやもうちょっと———— そんな葛藤と戦いながら、一輪の花とやっと出合ったのは、道なき道をかき分けてから30分ほど経ったころだった。 「あ! あった」 それは、ピンク色をした、まるで刷毛のような形状をした花で、茎までが赤黒かった。 唯一、葉は緑色をしているが、よくよく見ると、ふちや葉脈は赤い。まるで血が通っているような、どこか不気味な花だった。 文太はしゃがんでスマートフォンを構えた。 接写でまず撮影し、次は全貌を捉えようと、カメラのモードを変えて、少し後ろに下がる。 しかし、夢中になるあまり、道幅が狭いことを忘れていたのがまずかった。 かかとを着地する場所がない——そう気づいた時には体が仰向けの体勢に傾き、声を上げる間もなく、視界がぐるぐると回り始めた。 引き摺る音、ぶつかる音、叩きつけられる衝撃のなかで、それでもなにかにしがみつこうと爪を立てる。 そんなめまぐるしさは、一生続くかとすら思った。 「……?」 あらゆる衝撃が止み、ゆっくりと目を開けると、木立が穏やかに、こちらを見下ろしていた。 右手、左手。 両足。 それから首を動かしてみる。 それらすべてが問題なく動くことを確認すると、文太は息をゆっくりと吐いた。 手の爪には、ぎっしりと土が詰まっている。しかし、右手にはスマートフォンが握られたままで、乾いた笑みがひとつ溢れた。 左手で頬を撫でた際、指先に血がつき、慌ててスマートフォンのインカメラで確認するが、頭が割れているということもなく、頬にかすり傷があるだけだった。 それから、藁にもすがる思いで電波を確認してみるが——やはり圏外だ。
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