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「お前、梶川未来の弟なんだって?」
彼から放たれた言葉は、あまりに不意打ちだった。
「なんで、兄の……」
「ずっと探してるからだよ、俺も」
須崎から投げられている言葉の意図がよく理解できず、目が泳ぐ。
しかし、こちらが追いつく前に、須崎は実にストレートな言葉を、文太めがけて放ってきた。
「毎年——もう何年になるかな。アズとふたりであちこあち歩いて探してんの。お前の兄貴の、片足以外の部分」
初めて知った事実に、文太は口をつぐんだ。
梓がまだ兄を探している?
もしかしたらそれが、彼が山に登り続ける本来の目的なのだろうか。
そこまで考え、文太はあ、と声を上げた。
「もしかして、昨日ふたりで山に行くっていう計画も……」
それについて須崎が返事をすることはなかったが、彼の眉間に寄る皺で、読みは当たっているのだと察した。
須崎は眉間の凝りをほぐすように、時間をかけてため息を吐くと、冷静な顔を繕った。
「俺はアズの力になりたいんだよ。あいつが過去の苦しみから解放されて、楽になれるなら——何でもしてやりたいし、助けたいと思ってる」
「俺だって、そう思ってます」
言い返したが、弱々しくなってしまう。
須崎から淡々と放たれるその言葉は分厚く、重さを伴って文太の心に圧をかけた。
彼の表情は変わらなかったが、梓と過ごした年月により蓄積された自信、そしてなによりも揺るぎない愛情がはっきりと感じ取れた。
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