13. 浮いたり沈んだり

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小屋の外で待っていてくれたメンバーの対応は、優しいものだった。 岳から冷静に諭される場面もあるにはあったが、奈良や楠本からは、ネタにされ冷やかされたぐらいだ。 その日の日中は仮眠を取らせてもらい、夕方から業務に復帰した。 ——そして従業員の夕食時、改めて謝罪をしたのだった。 「この度は、ご迷惑をおかけしてすみませんでした」 席でふたたび深々と頭を下げると、楠本が先行して「まーまー」と声を張った。 彼から言葉が放たれると、途端に場の雰囲気が和らぐから不思議だ。 「反省してるのは十二分に伝わってるからさ。もーいーんじゃない? どうやら匠さんにもこってり説教されたんだろうし」 「え?」 「帰ってくる時、稜線上で話してたでしょ。厨房の窓から見てたよ。あー、めちゃくちゃ怒られてるなって、遠くからでもわかった」 それを聞いて、今度は奈良が口を開いた。 「うわー、あの人に怒られるとトラウマになるよなー。俺も一回、写真撮りたくて登山道から外れたとこに入ったら、ブチ切れられたことあるもん」 「そりゃあ琉弥が悪いだろ。整備してんのは小屋の人間なんだし。ほかの登山者が真似したらどうするんだ」 興奮気味に話す奈良に対し、岳が口を挟む。 「いや、だから悪いとは思ってるよ! でもさー、言い方がさぁ……」 それから奈良はばつがわるそうに額を指でかき、椅子の背もたれに寄りかかった。 「匠は遭難救助に入る立場だから、無茶な行動をしようとする登山者にはきつく言っちゃうんだよ。でもおかげでこの辺の秩序が保たれてるんだし、悪く言わないでやって」 「いやー、まあ、悪口言うつもりはないけどー……」 奈良は語尾を濁しながら、口をつぐんでしまう。 岳が制御しなければそのまま悪口に発展していただろうことは、その場の全員が察していた。 しかし、奈良の言わんとしていることも、わからなくはなかった。 「ブンもあまり気にすんなよ。匠は熱いだけで、悪気はないからさ」 いやだから、悪気があるんだってば。 そう言いたいのを堪えながら、とりあえず頷いてみせた。 須崎から受けたのが単なる説教だったら、どれほどよかったか————
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