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「それで、これ、お詫びと言っては何なんですが……」
夕食の合間に仕込んでおいたゼリーをひとつずつ出すと、とりわけ楠本が歓喜の声をもらした。
「わー、ゼリーだー! ブンちゃんが作ったの?」
「こんなことぐらいしかできないんで……」
遭難騒ぎを起こしたことの禊が、これで済んだとは思わないが、それでも何かせずにはいられなかった。
みかんの缶詰とゼラチンを煮て、小屋の外に出しておいたゼリーは、外気に晒されて、ちょうどよく固まっていた。
みんなが喜んでいるのを見て、文太はひとまず胸を撫で下ろし、やっと箸を持った。
「まあでも、今回のことでヒヤリとしたよ。古株が多いから、今まではなあなあになってたけど、これからは外出先を必ず全員で共有しよう」
「共有って〜?」
岳からの提案に、楠本が問いかけた。
「小屋の外に出る時は、行き先と戻り時間をホワイトボードに書くこと。電話しに行く時とか、近所の外出でも」
「じゃあ、梓さんのテント行く時も?」
楠本がいたずらっぽく言った時、文太は汁椀を傾けたまま固まってしまった。
奈良も同様に、気まずそうにしている。
岳だけが顔色ひとつ変えず、理路整然と続けた。
「そうだな。小屋の外に出る時は原則そうしてほしい。テン場だろうが、アズのところだろうが」
「だってさー、ブンちゃん!」
楠本に追い討ちをかけられ、文太は視線をどこにやったらいいのかわからなかった。
とりあえず、奈良の方は向けない。
口角を結んだまま固まっていると、楠本が手を叩いて笑った。
彼から受ける禊は、ある意味どれよりも応えたのだった。
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