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ゼリーカップの入った容器をひとつ、盆に乗せてから外に出た。
一歩踏み出したところで、ホワイトボードのことを思い出し、自分の名前の欄に「アズササン」と書き殴っておく。
文太の気持ちはざらざらとまとまりなく体内を巡っていて、夜の冷たい風に吹き付けられても、固まることはなかった。
ゼリーのように、うまくはいかないものだ。
気を抜くと、めまぐるしくて苦い感情が血管に詰まり、文太を息苦しくさせる。
粒子のように流れる戸惑いが、感情の目詰まりを起こすのだった。
文太はかじかむ指先をこすり合わせると、ダウンジャケットのジッパーを上げた。
瞬間、襟元からかすかに、梓の残り香が抜ける。
文太は小慣れた足捌きで石を避けながら、サンダルで彼のテントまで近づいていった。
幸い、まだ明かりがついている。
いつも通りカトラリーで鍋を打って合図をしてから、入り口を開けた。
梓はすでに寝袋に体を突っ込んだまま、文庫本を手に持っていたが、こちらに気づくと本をゆっくりとずらし、視線を合わせた。
「ゼリー作ったんで、持ってきました」
「寒いから、明日食う」
「じゃあ前室の小鍋の中に蓋して入れておきますね。忘れないでください」
文太はふたたび体を引っ込め、指定場所にゼリーを格納した。
そして、そのまましばし迷った挙句、ふたたび入り口に顔を突っ込んだ。
「やっぱり、ちょっと話していってもいいですか」
伺うと、梓は口角を上げ、文庫本を床に置いた。
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