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それからボトムスのウエストゴムを掻い潜ると、彼はようやく、小さく震えた。
「あ……っ」
それから手首を掴まれたが、首筋を甘噛みすると、握る力は弱くなった。
「勃ってる。すげー嬉しい……」
ゆっくり扱くと、梓は身をわずかにのけぞらせた。
「あ……、あっ」
うなじを軽く噛むたび、小刻みに痙攣する。
そして、それが快感による震えなのだと、文太は浅はかにも舞い上がった。
自分の手のひらで梓が昂っている。息を揺らし、身を震わせている————
だから、彼の体のこわばりが強くなるのも意に介さず、首筋を舐め、唇を貪り、指先で追い詰めた。
「待て……」
彼がか細い声で懇願しても、文太はやめなかった。
むしろ、煽りを受けたのだとさえ思った。
熱に浮かされるあまり、普段なら読み取れるはずのサインを見過ごしてしまったのだった。
「待っ、て……」
ゆっくり、はっきりと言われても、文太はまだわからなかった。
彼の膝に力が入り、体が固くなった時も、絶頂の前触れだと勘違いした。
「いきそう? 気持ちいいの?」
手の動きを速くすると、彼は息を乱した。
それを引き起こした原因が単純な快楽ではなく、一種のパニックのようなものに近いと察知したのは、彼が肩で継ぎ目なく呼吸を繰り返した時だった。
「梓さん?」
表情を伺おうとするも、腕で表情を隠されてしまう。
文太はなす術なく、彼の背中を撫でていた。
激情の波が引くと、あとはただ、平らに張っただけの冷たい水に浸されるような無力感が残るだけだ。
「ごめん」
やがて梓から落とされた言葉が、その無力感に拍車をかけた。
「なんで謝るの」
「違うのに——つい魔がさした」
「違うってなにが?」
曖昧だが、拒絶であることに間違いない。
声を出そうにも震えてしまいそうで、文太は口を開けたり閉じたりしながら、こめかみを押した。
「兄ちゃんとは違うってこと?」
発した声は、やはり震えてしまう。
そして自分で言いながら、悲しくなった。
「魔がさしたって、また俺と兄ちゃんを間違えたの……?」
しかし、なぜか自ら追い討ちをかけるような言葉を放ってしまう。
与えられた沈黙により、ショックが充填されてしまうと、これ以上梓からの言葉を待つのも無意味だと思った。
「文太」
腰を上げると、梓は一応、名を呼んでくれた。
しかし、今更詫びられても傷つくだけだ。
文太は振り向き、梓の頭をひと撫ですると、背を向けた。
「ランタンは、自分で消してくださいね」
それから、出入り口のジッパーを下ろして、闇に体を投げ出す。
じくじくと疼く無念を落ち着かせるには、外の寒さは好都合だった。
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