558人が本棚に入れています
本棚に追加
✳︎
文太が乾燥室にいたのは、わずか10分程度だった。
あまり時間をかけていると、逆に怪しまれそうだったからだ。
食堂に戻ると、もう梓の姿はなかった。
既に椅子やテーブルが端に寄せられており、その広々とした中央で、仏頂面の須崎があぐらをかいていた。
「布団、おせーよ」
彼は文太に睨みを利かせると、布団を奪って敷き始めた。
慣れた手つきであっという間に2組、準備してしまう。
その2組の布団の間が、妙に空いているのが気になっていると、須崎は上体をやっと起こし、あろうことかこう言った。
「おら、さっさと電気消せ。お前、廊下側な」
「え? 俺は……」
「アズが従業員部屋のお前のスペース使うから、お前はここで寝ろってさ。これ、岳の指示だから」
文太は混乱した。
まさか自分が須崎と枕を並べるだなんて、予想もしていなかったのだ。
そして、梓と須崎が別の場所で眠る意味、それは果たして————
思うところは色々あれど、あまり露骨に態度に出すわけにもいかない。
ひとまず文太は、彼の指示通り、電気を消してから布団に潜り込んだ。
食堂の天井と、染み付いているにおい。それらに囲まれて横たわるのはなんとも不思議な心地がする。
布団は厚手の靴下を通していても冷たい。布団から出ている鼻先もつんと痛かった。
「さっき見てただろ」
須崎はまっすぐ天井を見つめたまま、言った。
文太は擦り合わせていた両脚の動きを止め、代わりにゆっくりとした瞬きを数回、繰り返した。
「すみません、わざとじゃなくて……」
布団に顔の下半身を埋めながら詫びると、須崎は大袈裟なため息を吐いた。
覚悟していた叱責はやってこない。
彼は額に手を当てながら、やはり天井を見つめていた。
最初のコメントを投稿しよう!