17. 告白

2/14
前へ
/293ページ
次へ
如月避難小屋の鍵は外れていて、薄く扉を開けると、懐かしい匂いが文太を迎えた。 人にかき消されることなく充満する、木と土埃の——妙に清々とした、でもどこか寂しい匂い。 一歩踏み入れると、梓が柱に寄りかかっているのが見えた。 この前のように、彼の周りをビールの缶がいくつか取り囲んではいるものの、寝てはいないらしい。 足音に反応して、こちらを向いた。 「せっかく差し入れ持ってきたのに、定期点検してないじゃないですか」 岳から預かった弁当の包みを先に足元に置き、隣に腰掛ける。 床に放り出された梓の足の指先が、こちらの気配を意識して微かに動いた。 「……目視点検してるんだよ」 「掃除は?」 「床拭いた。靴下で」 つまりそれは歩いただけということだろう。脱いだ靴下が足元に丸まっている。 文太は息だけで笑いながら、彼の白いくるぶしを眺めた。 梓が無言で差し出してくれたビールを、文太はひと口だけ飲んだ。 喉越しはいいのだが、小屋内が寒いせいか、なかなか進まない。 缶の飲み口を唇に挟んだまま、梓の横顔を盗み見た。 瞳は澄んでいて、そこまで酔ってはいないようだ。 「明後日下りるんだっけ?」 「はい、学校始まるんで。梓さんはいつまでいるんですか」 「まだ決めてない。たぶん匠のタイミングに合わせて一緒に下りる」 須崎と一緒に———— 以前、神無月小屋の従業員部屋で彼らが交わしていたやりとりは、まだ有効だったらしい。 焦燥と諦観で浅くなっていく呼吸を、どうにかして保ちながら、梁を見つめた。
/293ページ

最初のコメントを投稿しよう!

558人が本棚に入れています
本棚に追加