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梓と文太の兄——すなわち梶川未来は、大学のワンダーフォーゲル部で知り合ったものの、部の活動にはほとんど顔を出さず、ふたりで山登りをすることが多かった。
梓は明言こそしなかったが、おそらくは自由気ままな未来のペースに巻き込まれる形でそうなったのだろう。
しかし、こと山でのパートナーとなると、ふたりの相性はよかった。
「もう少し」が口癖で限界まで攻めようとする、エネルギッシュな未来。
冷静に判断し、常に一歩先を読む梓。
未来が慎重すぎる梓を引っ張り、限界に挑むこともあれば、技術や体力に見合わない挑戦をしようとする未来を、梓が制する場合もあった。
攻めと守りの絶妙なコンビネーションで、ふたりは徐々にレベルを上げていった。
近郊の山々を日帰りで登ることから始まり、アルプスの岩稜帯の山々、一般登山道よりも高度なテクニックが試されるバリエーションルートや雪山まで、その活動範囲を広げた。
不思議なもので、危険な環境に身を置くごとに、ふたりの仲は縮まっていったという。
難所を通過するときや、天候が崩れた時——もうダメかもしれないというシーンを乗り越えた時の、不思議な高揚感。
その瞬間こそ、互いの存在が命をつなぐザイルのような、尊いものに思えるのだった。
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