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そんな、友達とも家族とも違う、唯一無二の関係性に変化が訪れたのは——出会ってから2回目の夏休み、テントを担いで東アルプスの縦走をした時だったという。
それは最南部から入山し、主脈を歩きながら北部の日本海側へと下山するコースで、実に10日以上を要する山行だ。
コースの途中には緊張が続く急峻な岩場もあるし、長期に及ぶ山行となれば、先々の天気を読むことも難しい。そもそも夏山において、ずっと晴れっぱなしということはまずないだろう。
さらにテント泊となると衣食住すべてを背負っていくことになるから、当然、荷物も多くなる。
事前の食糧計画も綿密に練らなければならないし、求められる総合的なレベルが上がるのだ。
——それでも、ふたりの山行は、前半は順調だったという。天候に恵まれ、晴れて岩が乾いているうちに最大の難所も通過した。
だからこのまま、すべてがうまくいくものだと、油断していたらしい。
危機に瀕したのは、あと2日ほどですべての山を踏破できるところまできた時だ。
その日も午前中はよく晴れて日差しが強かったが、昼になると遠くの空に怪しげな雲が浮かび始めた。
間違いなく積乱雲だと、梓は思ったらしい。
事実、まわりにいた登山者も天候の急変を懸念し、早々に下山を開始していた。
対し、未来は実に呑気なもので山頂での見晴らしのよさに気を取られていた。最大の難所を通過できたこともあり、気の緩みもあったのだろう。
それは梓も同様で、まあまだ大丈夫だろうと、特に未来を急かすこともしなかったという。
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