17. 告白

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しかし梓はもう、彼を宥めなかったらしい。 度重なる諍いに疲れてしまっていたし、今更、彼への想いを口に出すまでもないという驕りもあった。 自惚れもあったのかもしれない。 所詮、彼には自分しかいない。どうせ自分から離れることはないと———— もしあの時、彼にきちんと伝えていたら違ったのだろうか。 自分にとっても、未来はかけがえのない存在だ。 お前がいなくてはだめだ、離れるなと。 しかし、実際はそうしなかった。 「じゃあ好きにすればいい」と言い放って、シュラフに潜り込み、彼を見捨てた。 背を向けてはいたが、未来も大人しく横になった気配を察知すると——梓は少しだけ眠ったという。 梓の記憶が途絶えたのは、ほんのごくわずかな時間だった。 目を覚ますと、左側にはすっかり冷たくなった空のシュラフだけがあった。 空がすでに白み始め、少しだけ風が弱くなっている。 その時、梓は察したらしい。 彼は自己判断で、ひとりでピークへと向かったのだろう。 登頂したらこの場所に戻ってくるつもりらしく、小屋にはいくつかの荷物が残されたままだった。 梓は小屋から出て、蜜ヶ岳方面へと続く彼の踏み跡を辿ったが、歩くうちにまた風が強くなり、あっという間に巻かれた。 一縷の望みを託して小屋へと戻るが、やはり未来は戻ってきてはいなかった。 白い嵐がトレースを消していく。 希望を少しずつ打ち砕かれていくような、淡々と迫り来る絶望に、時に叫びだしそうになりながらも、梓は待ったという。 今にもからからと、いつぞやのように笑い出すんじゃないか。 死ぬかと思ったとおどけながら、扉を開けて入ってくる彼の幻を——短いまどろみの合間に見た。 しかし、未来は戻ってこなかった。 春先の魔窟は、未来を根こそぎのみ込んでしまったのだった。
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