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指先が滑る。
ワッフル地でできたバスローブは、いくら手のひらを押し当ててみても汗を吸収してはくれなかった。
扉の向こうで、湯が床を打つ音が聞こえる。
自身の膝頭に目をやると、わずかに震えているのがわかった。
——なぜこんなことになったのだろう。そもそも、そういう意味で「休憩」という表現を用いたのではなかった。
結局、梓は予定よりもだいぶ早く高速を下りた。
一般道路をしばらく走った後、ラブホテルの前で左折のウインカーを出されて——文太は思わず、シートにもたれていた上体を起こした。
直前まで、彼にそんな素振りはまったく見られなかったのだ。
隣で慌てふためく文太を鼻で笑いながら、彼は「お前が休憩したいって言ったんだろ」と言った。
そういうつもりじゃなかったとか、いくらなんでも急すぎるといった言い訳は、梓から放たれたひと言で引っ込んでしまった。
大丈夫、ここなら男同士でも入れるから————
端々から感じ取れる、妙に慣れた梓の言動は、文太から抵抗や良心といったものを失わせた。
結局、なにがわるいとか、まずいだとかが正常に判断できないままホテルの一室に入り、先にシャワーを浴びて、今に至る。
梓がなにを考えているのかが、文太には全くわからなかった。
これじゃまるで手焼きせんべいのようだ。
彼の熱に焦がされ、彼の手のひらで気まぐれにひっくり返されてばかりの、あまりにも間抜けな————
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